最新記事

ニュージーランド

人口の1%がホームレス! 好景気のニュージーランドで今起きていること

2018年5月28日(月)13時34分

慈善団体サルべーション・アーミー(救世軍)の政策アナリスト、アラン・ジョンソン氏は、自身が暮らす南オークランド周辺でも自動車やトレーラー、ガレージで暮らす家族が目立ち始めており、今回の公営住宅投資向け追加予算で、これが緩和できる可能性は低いと語る。

「財務大臣はこの状況を一変できると述べているが、とうていその領域には達していない」とジョンソン氏は述べた。

見捨てられた人々

6年連続の成長を遂げるニュージーランド経済は、強力な酪農セクターと躍進する観光セクター、そして移民に支えられている。

成長率が2019年に3.8%のピークに達すると財務省は予想しており、景気拡大がまだ続くと期待している。この数字は、国際通貨基金(IMF)が予想する先進諸国の成長率2%を大きく上回っている。

だが、ニュージーランドのインフラは成長に追いついていない。

同国を襲う住宅不足、交通渋滞、病院スタッフの不足を背景に、2017年の総選挙では、無敵に思えた中道右派の国民党が突如として有権者の支持を失ってしまった。

もちろん、特にここ10年間は、好景気の恩恵を受ける人々もいた。たが、それと同時に苦境に追いやられた人々も存在する。

ニュージーランドの先住民マオリ族は、同国人口の15%にすぎないが、ホームレスの3分の1を占めている。

米イェール大学によるOECDデータ分析によれば、ニュージーランドは加盟国の中で最もホームレス比率が高く、2015年には人口のほぼ1%が定住用の家屋で暮らしていない。

現状はその分析時点からさらに悪化している、とアナリストは指摘。2015年以降、政府の住宅補助の受給資格者数は倍増した。

また、賃金の上昇スピードは、過去10年間で6割増加した家賃負担に追いついていない。屋根の下で暮らすことができる国民にとってさえ、痛手を被っている状況が浮き彫りになっている。

保護施設も満員

ニュージーランドで最も人口の多いオークランドでも、ホームレスの数は史上最悪の水準にある。ここでは住宅不足も最も厳しい状況にあり、不動産調査会社クオータブル・バリューによれば、住宅価格は過去10年間で9割上昇した。

ロイターがインタビューした路上生活者の中には、オークランドを離れてウェリントンに来たという人が複数いた。

だが、圧迫は広範囲に拡大している。高級クラフトビールや熟練のコーヒーショップで有名なウェリントンは、同国内でも給与水準の高い都市だが、それでも家賃高騰の罠(わな)にはまった人は多い。

ウェリントン・ナイト・シェルターのカースティ・バギンズ氏によれば、同施設もほぼ常に満員状態だという。「ときには、ベッドと毛布を提供するのが精一杯ということもある」

(翻訳:エァクレーレン)

Jonathan Barrett and Charlotte Greenfield

[ウェリントン 21日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元に現れた「1羽の野鳥」が取った「まさかの行動」にSNS涙
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中