最新記事

マネジメント

ジェット旅客機の死亡事故ゼロ:空の旅を安全にしたリスク管理と「ダサい」デザイン

2018年4月18日(水)19時30分
クリストファー・クレアフィールド、アンドラス・ティルシック

ボーイング787ドリームライナーのコックピット Edgar Su- REUTERS

<ここ数十年、民間航空機の事故は減少を続けている。その秘訣は、失敗を隠さず共有する詳細な仕組みと、見える化を徹底した航空デザインだった>

2017年はジェット旅客機の死亡事故がゼロだったことが報じられると、トランプ大統領はすぐにツイッターでそれを自分の功績にした。「就任後、私は商用航空の安全対策を厳しくした。すばらしいことに、 2017年には航空機事故による死者がゼロで、史上最も安全な年だった」

アビエーション・セーフティー・ネットワーク(ASN)のデータによると、昨年は航空交通量が過去最多に達した一方で、大型旅客機の墜落事故は世界中のどこでも発生しなかったという。

しかし、航空機事故の減少傾向は今に始まったことではない。アメリカの航空業界では2013年以降、事故による死者は出ていない。実際、航空業界全体でも過去数十年、事故は減る傾向にある。

複雑なシステムは故障しやすいものだが、航空機は例外のようだ。1960年代以来、アメリカの航空システムはかなり複雑なものになっているが、空の旅はどんどん安全になっている。

われわれは、共著『メルトダウン』で、この注目すべき現象の背後にあるマネジメントとデザインの巧妙なアプローチを解き明かし、それらが誰にとっても貴重な教訓となることを論じた。ここにそのうちの3点を紹介しよう。

率直に話すこと、話を聞くことを教える

飛行機事故が発生する際によくあった過ちは、副操縦士が、機長の誤った判断に気づいてもそれ以上追及しないことだ。機長が操縦しているときに、副操縦士が異議を唱えることは難しく、機長のミスはそのまま見過ごされた。

70年代後半に、クルー・リソース・マネジメント(CRM)と呼ばれる訓練プログラムが導入されてから、すべてが変わり始めた。このプログラムは、コックピットだけでなく、航空機運航の文化に革命をもたらした。

安全をチームの問題として見直し、機長から客室乗務員まであらゆる乗員をより対等の立場に置いた。上司の決定に疑問を呈するのは、無礼ではなく義務になった。CRMは、乗組員に異議申し立ての「言葉」を教えた。それは他人の注意を喚起し、懸念を表明し、解決策を提案し、確実な同意を得るための詳細な定型手続きだ。

単に下の者が声を上げて上の者が聞けばいいというわけではない。CRMが示したのは、人は発言し、かつ聞けるということだ。少数意見を表明し、少数意見を受け入れる能力は、私たちにもともと備わっているものではない。だが、それを学ぶことはできるのだ。

小さな失敗や危機一髪の事態から学ぶ

1976年、米連邦航空局(FAA)は、航空業界全体で匿名の「不安全情報」を収集する制度を構築した。この航空安全報告制度(ASRS)はNASAの独立機関が運営し、毎月何千もの報告を収集している。ASRSに報告を出すことは、パイロットにとってミスの免責が受けられるだけでなく、誇らしい行為でもある。報告をすることによって空の旅がより安全になることを学んでいるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、国民に「直接資金還元」する医療保険制度

ビジネス

MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに最大

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

中国過剰生産、解決策なければEU市場を保護=独財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中