最新記事

北朝鮮

豊渓里の地下核施設はすでに使用不可能──中国地震学者

2018年4月26日(木)16時10分
ジョー・ディファジオ

金正恩が先週突然、核実験中止を発表した本当の理由は? KCNA/REUTERS

<もともと核実験場が使用不可能になっていたから、金正恩は核実験を中止する、などと言い出したのか?>

中国の地震学者は、北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)核実験場は、昨年の核実験で地盤が不安定になったせいで、一部が「使用不可能な状態になった」と考えている。

北朝鮮は昨年9月、万塔山の地下にある豊渓里核実験場で過去最大規模となる6回目の核実験を実施した。中国科学技術大学の研究グループは4月25日までに、核実験の爆発で山中に空洞ができたことが原因で万塔山はすでに崩落した、と結論付けた。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、豊渓里の脆くなった部分でで再び同じような核実験を強行すれば「環境に大惨事」をもたらすと、未だ発表前のこの論文は警告しているという。

金正恩党委員長が4月20日、核実験を中止し核実験場を廃棄する、と発表したのも、そもそも豊渓里が使用できなくなったからではないか、と指摘する研究者もいる。北朝鮮は昨年、ミサイル発射技術を飛躍的に進歩させ、核弾頭を装着できさえすればICBM(大陸間弾道ミサイル)でアメリカ本土を核攻撃できる能力を示していた。

論文執筆の責任者である中国科学技術大学の地震学者、温联星教授はウォール・ストリート・ジャーナルの取材に対し、研究論文は米地球物理学連合の学会誌「地球物理学研究レター」に近日中に掲載予定だ、と語った。ただし、「崩落により万塔山の地下核施設が使用できなくなった」ことや、「もし同じ現場でさらなる核実験が強行されれば、周辺環境に大惨事をもたらす恐れがある」と記述した部分は同誌に掲載されない。

なぜ記述が削除されるのかは不明だ。

38ノースは反論

中国の別の地震学者が行った研究も、昨年の核実験後に万塔山が崩壊した、と結論付けた。

しかし反論もある。

米ジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮分析サイト「38ノース」は4月23日、独自の分析結果を発表し、豊渓里核実験場は「完全に稼働している」と断言した。また豊渓里の様々なエリアを撮影した衛星画像を公表し、北側坑道は放棄されたとみられる一方、西側坑道と南側坑道は現在も使用可能だ、と分析した。

米ミドルベリー国際大学院の東アジア不拡散プログラムでディレクターを務めるジェフリー・ルイスは、万塔山が崩落しても核実験場が完全に使用不可能になるわけではない、とツイートした。

「(影響があるとしても)北朝鮮は核実験場を周辺の山に移せばすむことだ。金が核実験の中止を決めたのは、南北、米朝首脳会談を控えているからであって、核実験場の山の崩落は理由ではない」と、彼は書く。

金は4月27日に韓国の文在寅大統領との南北首脳会談に臨む。その後、ドナルド・トランプ米大統領との米朝首脳会談も開かれる見通しだ。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米石油・ガス業界のM&A、第1四半期は過去最高の5

ビジネス

米テスラ、メキシコ・インドの工場新設計画が不透明に

ビジネス

午前の日経平均は大幅続伸、ハイテク強い 先物主導で

ビジネス

今期事業計画はかなり保守的=永守ニデックグループ代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中