最新記事

シリコンバレー

シリコンバレー成長信仰の危険なツケ

2018年4月24日(火)16時30分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

しかし成長の極限を追い続けた結果、フェイスブックはミャンマー(ビルマ)のイスラム系少数民族ロヒンギャの大量虐殺をあおったとされるヘイトスピーチやプロパガンダに利用される事態に陥った。既にミャンマーでも商業、社会活動の重要な手段になっているから、撤退するわけにもいかない。

ユーザーが動画をライブ配信できるフェイスブック・ライブも、その利便性ゆえに批判されている。殺人や自殺のシーンを簡単にオンライン配信できるからだ。ザッカーバーグはスナップチャットやツイッターのペリスコープなどに対抗するため、この機能の導入に「夢中になって」いたという。

どんなに非難されても、フェイスブックはひたすら成長を優先させてきた。ユーザーのプライバシーやソーシャルメディアへの過剰依存、ニュースフィードがメディアやスポンサー、選挙、社会全体に及ぼす影響にも目をつぶってきた。

さすがのフェイスブックも、今は腰を低くしている。外国からの選挙介入や差別的な広告、ユーザー情報の悪用などに真摯に対処する姿勢を見せている。

1月には、ユーザーの利用時間が減るリスクを承知でニュースフィードのアルゴリズムを変更すると発表した。その数週間後には、アメリカとカナダでアクティブなユーザー数が初めて減少したことも認めた。

フェイスブックは映画『スピード』のバスのようだ。爆弾が仕掛けられていて、時速80キロを切ると爆発してしまう。だから経営陣は、誰かが巻き添えになるのを承知でアクセルを踏み続けてきた。

最近になって初めてブレーキを踏んだように見えるが、さて速度が落ち過ぎて爆発しないかと、みんな固唾をのんで見守っている。ただし本当の問題は、速度を上げ過ぎて制御できなくなっていることだろう。

シリコンバレーの企業にとっては成長が全て。新興企業専門の投資家ポール・グレアムは12年の「スタートアップ=成長」と題するエッセイで、成功に「必要なのは成長だけ」だと書いていた。

自動運転で歩行者が死亡

成長速度の維持と事業を正しく管理することは、しばしば矛盾する。その調整に苦しむのはフェイスブックだけではない。グーグル傘下のYouTubeは最近、自社の管理システムが十分でなかったために、フェイクニュースや陰謀説を排除できなかったことを認めた。

4月3日にはアメリカ在住の動画投稿者がYouTube本社で銃を乱射する事件が発生。この女性は、1月に同社が小規模クリエーターに対して広告掲載の条件を厳格化したことに不満を募らせていたとされる。

ツイッターには荒らしやボット(自動投稿ソフト)、ロシアのスパイがあふれている。同社のライブ動画配信サービスのペリスコープは、未成年者の性的搾取に悪用されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中