最新記事

中国政治

習近平体制の閣僚人事を読み解く

2018年3月31日(土)13時30分
ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長)

新しい内閣の面々はほぼ全て、経験豊富な中年の官僚出身者だ。財政相に抜擢された劉昆(リウ・クン)は、広東省の財政責任者や財政次官を歴任したベテランだ。科学技術相の王志剛(ワン・チーカン)は、情報産業のエンジニアとして出発し、国防関連の巨大国有企業「中国電子科技集団(CETC)」の経営トップを8年、そして科学技術次官を7年間務めた末に大臣に昇格した。

もちろん、エリート官僚ばかりが重用されているわけではない。習が閣内で影響力を振るったり、その他の政治的な目的を追求したりするために、いわば「政治任用」で要職に据えた側近たちもいる。

中国政府で最も強力な経済官庁である国家発展改革委員会のトップを引き続き務めることになった何立峰(ホー・リーフォン)は、習がアモイの副市長を務めたとき、市の財政部門の責任者だった人物だ。その後、習が福建省長に就任すると、急速に頭角を現し始めた。

商務相に留任した鐘山(チョン・シャン)は、習が浙江省の共産党委員会書記だったとき、同省の副省長を務めていた。交通運輸相の李小鵬(リー・シアオポン)は、父親が李鵬(リー・ポン)元首相という「太子党」(共産党幹部の子弟)で、筋金入りの保守派でもある。

エリート官僚と習の側近が多くのポストを占めるなか、中国ウオッチャーの間では、異色の経歴を持つ2人の人物が過剰なまでに脚光を浴びている。国際経験が理由だ。

財政・通商を担当する副首相に起用された劉鶴(リウ・ホー)は、経済政策における習の右腕的存在として中国の経済政策に絶大な影響力を持つだろう。劉はほかの多くの高官と異なり、2年間のアメリカ留学経験があり、ハーバード大学ケネディ行政学大学院で修士号を取得している。

2人の「国際派」の真価

もう1人の人物は、中国人民銀行(中央銀行)の易鋼(イー・カン)総裁だ。周小川(チョウ・シアオチョアン)の後を継いで副総裁から昇格した易は、イリノイ大学で経済学の博士号を取得している。欧米の大学の博士号取得者が閣僚級のポストに就くのは、易が初めてだ。

アメリカの大学で学び、研究者としても評価の高い劉と易は、ナショナリスティックな一党支配体制に傾く中国政府内の「国際派」に見えるかもしれない。しかし、現実には2人とも「国際派」として自由貿易を推進することは考えにくい。

確かに、留学経験のある2人は、国際的な政策論議では一目置かれるかもしれない。閣内でも一定の影響力を振るえる可能性がないわけではない。

しかし、この2人も結局は共産党体制の産物だ。アメリカの大学で学んだ「おかげで」ここまで出世できたわけでなく、「それにもかかわらず」出世したと見たほうがいい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ人道危機「想像を絶する」、日本含む24カ国外相

ワールド

OPEC、26年原油需要見通し引き上げ 域外産油国

ワールド

FRBの独立性は「最重要」、9月FOMC前の理事指

ワールド

インド7月CPI、前年比1.55%に伸び鈍化 8年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トランプが「顧客リスト」を公開できない理由、元米大統領も関与か
  • 2
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 3
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    「古い火力発電所をデータセンターに転換」構想がWin…
  • 8
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 9
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 10
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 1
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 2
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 5
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中