最新記事

中国

トランプ、中国に知財制裁──在米中国人留学生の現状から考察

2018年3月26日(月)12時52分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

それも最近では中国人留学生の低年齢化傾向が強くなったものの、2016年統計でさえ、高校卒(学部入学)が10%、学部卒(大学院入学)が30~40%で、あとは大学院生が修士課程から博士課程に行くケースや、中国で博士課程まで終えたが他の研究コースを選ぶ者などがあり、ともかく高学歴傾向にある。低年齢化し始めても、この比率なので、それ以前は大学院進学者が如何に多かったかがお分かり頂けるだろう。

アメリカの大学で博士の学位を取得した者は、そのままアメリカに残って大企業に就職したり、あるいはシリコンバレーなどに行って起業する道を選ぶ。1990年代では、なかなか中国に帰国しない者が多かったが、90年代半ばから中国の(元)人事部(中央行政省庁の一つ)が陣頭指揮を取り、全世界に散らばる中国人博士を中国に呼び戻す巨大なネットワークを創り始めた。

世界を覆う「全球人材信息網(チャイナ・タレンツ・ネットワーク)」

そのダイナミズムと内部事情を筆者は、『中国とシリコンバレーがつながるとき』(日経BP社、2001年)で詳細に描いた。

中国では在学生に関しては教育部が管轄し、大学を卒業した者、特に博士に関しては国家人事部が管轄していた。2008年の国務院構造改革の中で人事部はなくなり「人力資源と社会保障部(人社部)」に改組されたが、ここでは人事部で話をしよう。

1996年、当時の人事部は全世界の中国人博士に呼びかけて「全球人材信息網(中国は英語で「チャイナ・タレンツ・ネットワーク」と表現。直訳はグローバル人材情報網)」を創設し、できるだけ多くの博士が自分が持っている技術を携えて中国で起業するよう「留学人員創業パーク」なるものを中国の各地に設立したのである。特別の優遇策を講じて海外で学んだ技術を中国に持ち帰ることを支援した。

中国人留学生が留学先の大学に在籍している間は、その国の中国大使館(および各地域の領事部)が管轄し、各大学に中国人留学生学友会を設置させ、会長は必ず中国大使館に自分の大学の中国人留学生に関する行動を報告しなければならない。だから中国政府は各国に駐在する中国大使館へのCCメール一本で、全世界の中国人博士の進路先も容易に掌握できるシステムになっている。

こうしてアメリカ西海岸のシリコンバレーと北京は完全なホットラインでつながったのである。もちろんアメリカだけではなく、それはフランスやドイツなど主要先進国を全て網羅している。アメリカ国内でもシリコンバレー以外に他の大企業あるいは有名大学の研究室で研究をしている中国人博士は、各自が知り得た知識・技術を北京に提供するシステムができ上がっているのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が

ビジネス

エヌビディア、新興AI半導体開発グロックを200億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中