最新記事

中東

イスラエル軍機撃墜、イランとの緊張激化で戦争か

2018年2月13日(火)18時30分
マーク・シュルマン

2月10日、イスラエル北部に墜落したF16戦闘機の残骸を調べるイスラエル治安部隊 Ronen Zvulun-REUTERS

<イランがシリアの軍事拠点からイスラエルに無人機を飛ばしたのがきっかけで報復合戦に。今や仲裁すべきアメリカの姿もない>

イランの無人機が、イスラエル北部のシリアとの国境付近に飛来したのを察知。領空侵犯してきた無人機を、待ち構えていたイスラエルのアパッチ攻撃用ヘリコプターが撃墜した。

すぐさま報復に転じたイスラエル空軍は、シリア領内にあるイラン施設や無人機関連施設を空爆した。

イスラエルの情報筋によれば、攻撃には長射程で最先端のスタンドオフ型のミサイルを使用したため、イスラエル軍の戦闘機はシリア領空に入る必要はなかった。

だがイランと手を組むシリア政府軍は、イスラエル軍の戦闘機に向けて空前の規模の対空ミサイルを発射。イスラエル北部を飛んでいたF16戦闘機の1機が撃墜された。パイロット2人はパラシュートで脱出したが1人は重体。イスラエル軍の戦闘機が撃墜されたのは1982年以降で初めてだ。

平和の虚構が崩れた

これを受け、イスラエルはさらに大規模な報復措置として、シリアにあるイラン関連の軍事施設4カ所やシリアの防空施設少なくとも4カ所を含む計12カ所を空爆。F16戦闘機を砲撃した全ての施設を破壊した。イスラエルの情報筋によれば、今回の攻撃はシリアの防空施設を狙ったものとして、1982年のイスラエルによるレバノン侵攻以降、最大規模かつ最も成功した作戦例になったという。当時のイスラエルは、対立するパレスチナ解放機構(PLO)を支援したシリア空軍に向けて空爆を繰り返した。

イスラエル住民は今、自分たちが平和と思ってきたものは虚構だったのかと、自問自答している。何かが根底から変わってしまったのか、と。答えはその通り、だ。

イランがイスラエルに無人機を飛ばしてきたのは大きな変化だ。目的が攻撃だったか単なる偵察だったかはわからないが、それは大した問題でない。重要なのは、ここにきてイランがイスラエルと直接対決するという戦略的な決断を下し、戦い方を変えてきたことだ。

イランがシリア領内にイスラエル攻撃用の前線基地を作るのは絶対に許さないと、イスラエルは公言してきた。だがイランはシリアの軍事拠点化を断固進めるつもりだ。今後、対立が激化するのは必至だ。

今回のイスラエル軍機撃墜は、驚きを持って受け止められた。イスラエル空軍は自国の戦闘機が無敵だと信じていたわけでは決してないが、実際に撃墜され、しかも現場がイスラエル上空だったことに驚きを隠さない。F16戦闘機に搭載されている高度防御システムの一部が作動しなかったのは明らかだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44

ビジネス

スウェーデン中銀、26年中は政策金利を1.75%に

ビジネス

中国、来年はより積極的なマクロ政策推進へ 習主席が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中