最新記事

人工知能

スタンフォード大学が患者の余命を予測する人工知能システムを開発

2018年1月29日(月)16時00分
松岡由希子

患者の余命を予測する人工知能システムを開発 sturti-iStock

<米スタンフォード大学の研究プロジェクトは、1995年から2014年までの約200万人の患者の電子健康記録を読み込ませ、患者の余命を予測する人工知能システムの開発に成功した>

患者の余命予測は、慎重を期して行われるべきものであり、実際、複雑で難しいものだ。医師は、患者の年齢、家族や近親者の病歴、薬剤反応性(薬剤の薬理効果と副作用の発現の程度)など、数多くの要因を考慮しなければならず、自身のエゴや先入観を最大限に排し、ときには、ありのままに患者の余命を見立てることへのためらいなどとも葛藤しなければならない。

余命3ヶ月から12ヶ月の患者をおよそ90%の精度で予測

米スタンフォード大学の研究プロジェクトは、患者の余命を予測する人工知能システムの開発に成功した。

ニューラルネットワークによって膨大な量のデータを振り分け、学習する「深層学習(ディープラーニング)」の手法を用い、サンプルデータとして、1995年から2014年までにスタンフォード大学またはルシール・パッカード小児病院で治療を受けた約200万人の患者の電子健康記録を読み込ませ、学習させたところ、疾病の種類やその進行度、年齢などをもとに、余命3ヶ月から12ヶ月の患者をおよそ90%の精度で予測できるようになったという。

終末期医療に切り替える適切なタイミング

この人工知能システムは、終末期医療(ターミナルケア)を適切に提供する上で役立つと期待が寄せられている。

終末期医療とは、患者とその家族の心身の苦痛やストレスを和らげ、生活の質(QOL)の維持・向上を目的として行われる医療や介護のことで、治癒の見込みのない患者が残された生活を心穏やかに過ごすうえで重要なものだが、そのためには、患者の余命があとどれくらいなのかを医師が知ることが不可欠だ。

この人工知能システムを活用できれば、終末期医療が必要と思われる患者を自動で選びだし、医師による診断なども総合的に勘案して、より適切なタイミングで、延命のための治療から終末期医療に切り替えることができる。

余命予測の根拠が"ブラックボックス化"する懸念も

ただし、この人工知能システムは、深層学習の特性上、余命予測の根拠が"ブラックボックス化"してしまうという制約はある。たとえば、なぜ、その患者の余命を12ヶ月と予測したのか、医師はもちろん、この人工知能システムを開発した研究者さえも、わからないのだ。

しかし、疾病の根治を目指す治療とは異なり、患者の症状に対応して処置をする対症療法が中心となる終末期医療においては、必要となる医療や介護が、患者が病にかかっている理由によって影響されることはない。ゆえに、この人工知能システムは、終末期医療が必要な患者を特定するという目的においては有効に活用できると考えられている。

ある調査結果によると、アメリカ人の約8割が「自宅で生涯を終えたい」と望んでいるにもかかわらず、実際は、6割の人々が延命のための積極的治療を受けている間に病院で亡くなっているという。この人工知能システムは、人工知能と医師の力を組み合わせることによって、従来の治療だけにとどまらない、患者の本来のニーズに合った医療への道をひらく一歩としても注目に値するだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:米株のテック依存、「ITバブル期」上回る

ビジネス

午後3時のドルは153円前半、1週間ぶり安値から反

ビジネス

三菱重、今期の受注高見通し6.1兆円に上積み エナ

ビジネス

三菱重社長「具体的な話は聞いていない」、対米投融資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中