最新記事

シリア情勢

シリアでも混乱を助長するだけだったサウジアラビアの中東政策

2017年11月28日(火)19時44分
青山弘之(東京外国語大学教授)

ジュネーブ会議は、シリア政府が交渉や移行プロセスに参加することを基本原則としており、その排除をめざしていなかった。とはいえ、「シリアの友」と反体制派は、政権退陣を強く求め、会議の主要な争点にしようとしてきた。

こうした状態に変化をもたらしたのが、2015年9月末に開始されたロシアの空爆だった。これによりイスラーム国と反体制派に対するシリア政府の軍事的優位が決定的となると、欧米諸国は、その言説とは裏腹に、政権存続を認めざるを得なくなった。

2016年12月のシリア軍のアレッポ市東部制圧によって、この流れは確たるものとなった。反体制派の最大拠点だった同地が陥落するのと前後して、政権退陣をもっとも強く主張してきたトルコがロシアとイランに接近したのだ。三カ国は、停戦を目的としたアスタナ会議の保証国となり、2017年5月の会議(アスタナ4会議)で、反体制派支配地域を緊張緩和地帯に設定し、停戦監視や人道支援で協力を深めていった。

米国も迎合した。ドナルド・トランプ政権は、イスラーム国撲滅に注力するとして、アル=カーイダ系組織と共闘する武装集団への支援を中止した。反体制派は、緊張緩和地帯にかかる合意に準じてシリア政府との停戦に応じるか、イスラーム国との戦いに専念することを余儀なくされた。

ロシアが主導する新たな和平プロセス

政治的解決に向けた動きは、10月19日にロシアのヴラジミール・プーチン大統領がシリア諸国民大会と銘打って、シリア政府、反体制派双方合わせて1,500人、33の政党・政治団体を一同に会して、和解に向けた対話を行うと提案したことで本格化した。

ロシアは、この大会がジュネーブ会議の一環をなすと説明した。だが、ISSG共同議長国としてロシアとともにジュネーブ会議を主導するはずの米国がシリア内政への関与を弱めるなか、シリア諸国民大会がジュネーブ会議に代わるロシア主導の新たな和平プロセスの場として用意されていることは明白だった。そのため、多くの反体制派は、出席を拒否すると表明した。また、トルコも、ジュネーブ会議から排除されていたクルド民主統一党(PYD)が大会に招待されていることに異議を唱えた。

だが、ロシアはトルコを説得した。11月22日にソチで開かれたプーチン大統領、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、イランのハサン・ロウハーニー大統領の首脳会談で、三カ国は大会を開催することで合意、シリア政府と「国土統一を遵守する反体制派」に参加を呼びかけた。「国土統一を遵守する」という文言は、PYDの除外を含意しており、トルコはこの条件をもって大会開催を是認したかたちとなった。また、英『タイムズ』紙によると、トルコは、その代わりにPYDが主導する西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)の支配地域を越境攻撃する場合、シリア政府の同意を得ることを、ロシアとイランに約束、アサド政権の存在を認めたという。

なお、21日には、アサド大統領がソチを電撃訪問し、プーチン大統領とシリア諸国民大会をめぐって協議、22日にシリア外務在外居住者省は三カ国首脳会談に歓迎の意を表明した。また、トランプ大統領も21日、プーチン大統領との電話会談で、シリア諸国民大会に向けた取り組みを了承した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、カナリーワーフに巨大な英本社ビル新設

ワールド

特別リポート:トランプ氏の「報復」、少なくとも47

ビジネス

欧州委、SHEINへの圧力を強化 パリ裁判所の審理

ワールド

米大統領が中国挑発しないよう助言との事実ない=日米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中