最新記事

アメリカ社会

トランプ政権の移民包囲網は子供にも容赦なく迫る

2017年11月6日(月)12時15分
カルロス・バレステロス

magw171104-border02.jpg

移民関税執行局(ICE)による不法入国者の摘発が相次いでいる John Moore/GETTY IMAGES

母親の面会も許されない

その夜、サンアントニオ在住の移民問題専門の弁護士レティシア・ゴンサレスは事件を知らされ、直ちにドリスコル小児病院へ向かった。彼女が到着したときには、制服姿の武装したICE職員5人が病室の外で待機しており、ゴンサレスが病室へ入るのを病院職員に阻止された。地元の人気スペイン語ラジオ局でこの話を暴露すると脅しをかけたところ、病院側とICE職員は折れたという。

本誌はドリスコル小児病院に取材を申し込んだが、構内に移民当局者が入った場合の方針に関してはノーコメントとのことだった。ゴンサレスの話についても、患者のプライバシー保護を理由に回答を拒否した。

ドリスコルでは今年9月にも同様の事件が起き、大きな論議を呼んだ。不法移民の夫妻が生後2カ月のわが子の治療に訪れた際、院内に入ると同時に移民当局者に拘束されたのだ。

ICE職員はゴンサレスに、ロサマリアをヒューストンの収容センターへ送ると言っていた。しかし約1時間後、救急車でサンアントニオへ移送する方針に変わったと知らされた。アメリカ永住権を持つロサマリアの祖父を保護者として認定し、彼女を退院させてほしいと訴えたが却下された。

移送の時間が迫るなか、ゴンサレスは新たなショックを受けた。ICE職員がロサマリアとカントゥと共に、救急車の患者収容部に乗ろうとしていたのだ。ロサマリアと離れて、前部座席に座ってほしいという要求は聞き入れられた。

「彼女は脳性麻痺で、実年齢は10歳でも精神的には5~6歳児に近い」と、ゴンサレスは言う。「武装したICE職員が横に座る必要がどこにあるのか」

DHSは今後、ロサマリアを母親がいる自宅へ帰すべきかどうかを判断することになると、弁護士のガルベスは話す。通常なら2カ月以上かかるプロセスだが、状況に配慮して迅速に対応するとの確約を得たという。「約2~3週間以内に決定を通知すると伝えられた」

それまで、ロサマリアはサンアントニオの青少年移民収容センターに滞在することになる。面会は可能だが、訪問を許されているのは米市民権を持つ者だけ。つまり母親と会うことはできない。

「病院から連れ出されるとき、明らかに(ロサマリアは)動揺していた」と、ゴンサレスは言う。「母親に会いたいと、ひたすら望んでいる」

ゴンサレスによると、センターへの移送時、ロサマリアの健康状態は安定していた。母親のデラクルスはその点については喜んでいるものの、娘がセンターでどんな思いをするかと不安を感じている。

「いつも一緒だったのに、あの子が私を必要としている今、そばにいてあげられない」。デラクルスはNBCのスペイン語チャンネル、テレムンドでそう嘆いた。「娘がどんな扱いを受けるのか、私には分からない。怖くてたまらない」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年11月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月利下げが適切 以後は慎重に判断─シュナ

ビジネス

中国4月鉱工業生産、予想以上に加速 小売売上高は減

ワールド

訂正-ポーランドのトゥスク首相脅迫か、Xに投稿 当

ビジネス

午前の日経平均は反落、前日の反動や米株安で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中