最新記事

ロシア社会

中絶規制をプーチンに迫るロシアの宗教右派

2017年11月1日(水)11時40分
エイミー・フェリスロットマン

ロシアでは早くから中絶が合法化されていた。社会主義政権樹立後まもない1920年、男女平等の旗を掲げて世界で初めて合法化に踏み切って以来、スターリン政権下で禁止された36年以降の20年間を除いて、この制度は世論に支持されてきた。

しかし現状には問題もある。多くのロシア女性は、避妊の唯一の手段として中絶を利用している。政府の統計では中絶手術を受ける女性は14年で年間約93万人。これでも減ったほうで、95年にはこの3倍。ソ連時代の65年には今の6倍で、中絶件数が新生児の出生数の3倍近くに上った。

欧米諸国と比べると、ロシアの中絶率は今でも極端に高い。新生児の出生数1000人に対して中絶件数は480件前後だが、アメリカでは200件前後。ドイツでは約135件だ。

中絶を禁止すれば出生数が増えるとは限らないが、ロシアでは少子化が深刻な問題であることは確かだ。欧米の制裁で経済が低迷するなか、死亡率は高く、合計特殊出生率(1人の女性が一生のうちに産む子供の平均数)は伸び悩んでいる。

現在の人口は1億4400万人だが、今世紀半ばには25%程度減るとの予測もある。ロシア連邦統計局によると、今年7月末までの出生数は昨年同時期と比べ1万7000人少ないという。

ロシア政府は07年から、第2子出産時に支給される7500ドル相当の出産手当などの少子化対策を実施してきた。ドミトリー・メドベージェフ首相は大統領を務めていた10年、ロシアが誇る劇作家のアントン・チェーホフも宇宙飛行士のユーリ・ガガーリンも第3子であり、第3子は国の宝だと演説。第3子の出産には無償で土地を与えるなどの優遇措置を導入した。

その一方でプーチン政権は、女性と性的少数者の権利を踏みにじる政策をためらわずに導入してきた。中絶論争の高まりは、女性の権利を制限する動きと同時進行している。

プーチンは13年、「同性愛の宣伝」を禁止する法案に署名した。欧州人権裁判所は今年6月、これを差別的な法律と判断し、罰金刑を受けた人に損害賠償するようロシア政府に命じた。

プーチンが今年2月に署名した家庭内暴力に対する刑罰を軽減する改定法案も、通称「平手打ち法」と呼ばれ、妻への夫の暴力を容認する法律として人権擁護団体の批判を浴びている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エピックゲームズ、「フォートナイト」不振で100

ワールド

アングル:中東危機による海上輸送混乱、日韓の中古車

ビジネス

米国のイースター消費、過去最高の249億ドルに=業

ビジネス

英小売売上高指数、3月はコロナ禍以来の大幅悪化 見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 6
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 7
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 8
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 9
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 10
    「日本人のほうが民度が低い」を招いてしまった渋谷…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中