最新記事
テロ

ISIS劇場型テロで世界に広がる「テロ疲れ」

2017年11月10日(金)16時20分
アマーナス・アマラジンガム(戦略対話研究所上級研究員)、コリン・クラーク(ランド研究所)

ラスベガスで起きた銃乱射事件に対してもISISは犯行声明を出した Lucy Nicholson-REUTERS

<エスカレートする攻撃は過激派組織の焦燥感の裏返し。過剰反応を避けてテロに対抗する力を養うべき>

10月31日にニューヨークで起きたテロ事件の犯人は、テロ組織ISIS(自称イスラム国)への忠誠心から犯行に及んだらしい。11月2日にはISISも、自らのオンライン週刊誌アルナバで戦闘員の攻撃だと表明した。

テロに片っ端から犯行声明を出し、いつどこでテロが起きるか分からない不安をあおる──そんな彼らのやり方は、「テロ疲れ」を招いている可能性がある。欧米でのテロの繰り返しは代償を伴う。常軌を逸した行為が次第に普通に思えてくる。人々は暴力に対して怒りも哀れみも感じず、反応しなくなる。

テロによる死傷者は増え続け、ISISは実際には関係のないテロにまで犯行声明を出す。10月最初の週末に各地で相次いだテロがいい例だ。カナダ西部ではイスラム過激派思想に感化されたソマリア難民がナイフと車で警官や歩行者を襲い、フランス南部では駅で女性2人が刺殺された。ラスベガスではアメリカ史上最悪の銃乱射事件が発生――犯人との接点は不明だがISISは犯行声明を出した。

手当たり次第の犯行声明で、欧米を中心に世界中にテロの脅威が蔓延しているように見せ掛けるという作戦らしい。各地の国際紛争を監視している軍事研究所(ワシントン)によれば、ヨーロッパでは今年1~9月だけで、未遂も含めISIS絡みのテロが54件起きている。

過剰反応は敵の思う壺に

普通に考えれば、テロが増えれば人々の恐怖も増すはずだが、逆の研究結果もある。人は暴力を当たり前のこととして受け入れ、脅威を切り抜けるため戦略的選択をするというものだ。たまり場は避け、日没後は物騒な一帯には近づかないといった判断力を働かせることで、避けるべきことを決め、脅威に対抗できる力を付けていく。

ISISの戦略は、交渉による永続的な政治的解決を目指すものではない。報復を続け、社会を一層分裂させ、各国政府の過剰反応を引き出して、最終的に欧米対イスラムの戦争という既存の物語を裏打ちし、新兵募集にも役立てる。

現にトランプ米政権は今年1月、イスラム圏7カ国に対する入国禁止令を発表。世界各地のイスラム教徒は被害者で、ISISは信仰の擁護者だという彼らの主張を補強する結果になってしまった。

こうした過剰反応は、有効性の薄れかけたISISの戦略を助けるだけだ。マンネリ化した社会運動や武装組織は得てして、再びメディアの注目を集めようと行動をエスカレートさせる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領府長官が辞任、和平交渉を主導 汚職

ビジネス

米株式ファンド、6週ぶり売り越し

ビジネス

独インフレ率、11月は前年比2.6%上昇 2月以来

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    筋肉の「強さ」は分解から始まる...自重トレーニング…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中