最新記事

アフリカ

ジンバブエの英雄から独裁者へ、ムガベの37年

2017年11月22日(水)18時20分
コナー・ギャフィー

権力を握ったムガベ(中央)は白人との宥和政策で称賛されたが(80年4月) Jean-Claude Francolon-Gamma-Rapho/GETTY IMAGES

<「黒人解放の闘士」の座から転げ落ち、軍によって軟禁されたムガベ大統領――強権政治で莫大な負の遺産を国に残した男の歩み>

ジンバブエの首都ハラレには、静かななかにも張り詰めた空気が漂っていた。11月15日、街にはあちこちに軍用車両が出動していたが、市民はいつもと変わらない生活を送っていた。

しかし、エバン・マワリレは違った。ハラレにある教会の牧師で、ソーシャルメディアを駆使してムガベ政権に反対する「#ThisFlag」という運動を率いる彼は、国民は事の重大さに気付いていると語った。「普通に見えるが、みんなこの国で何が起きているかをはっきり理解している」

実はこの日、ハラレでは目まぐるしく事態が動いていた。早朝、国軍が国営放送局を占拠して声明を発表。標的は、ロバート・ムガベ大統領(93)の周辺にいる「犯罪者たち」だとテレビを通じて表明した。

80年のジンバブエ独立から最高指導者の座にあるムガベが自宅軟禁下に置かれている事実が、その日のうちに確認された。さらに軍はムガベに対し、エマーソン・ムナンガグワ前副大統領に権力を移譲するよう求めているようだと報じられた(ムナンガグワは6日、ムガベに突然解任されていた)。

この日の出来事は、37年間続いたムガベ時代の不名誉な終焉を意味しているようだ。ジンバブエでは、多くの国民がムガベ以外の政治指導者を知らない。彼らは自国がアフリカの食料庫だった時代から、経済崩壊に至るまでの変遷を目撃してきた。通貨制度は破綻し、中央銀行は国外で通用しない紙幣を印刷し始めた。「ムガベ政治の不幸な点は、善政よりも悪政のほうが国民の記憶に残り、後味が悪いことだ」と、マワリレは言う。

しかし事態が急変しても、ムガベの人気は高いままだろう。何といっても彼は、イギリスの植民地として白人に支配されていたこの国を独立に導いた英雄として尊敬を集めている。

マルクス主義者で「アフリカ民族主義者」であるムガベは、70年代に人民軍を組織し、少数白人政権と戦った。その後、イギリスなどの仲介によって和平が実現し、80年の総選挙でムガベは首相に就任。87年には大統領となり、現在に至っている。

権力の座に就くと、ムガベは白人との和解と国の再建を誓い、数人の白人を閣僚に任命した。医療や教育も、彼の時代になって大きく発展した。いまジンバブエの識字率は少なくとも86.9%で、アフリカ諸国では最高レベルだ。

大量虐殺も非難されず

その一方で、ムガベが指導者になって間もない83~87年には大量虐殺が行われ、彼は強権的な独裁者として知られるようになった。北朝鮮で軍事訓練を受けたムガベ直属の部隊が西部のマタベレランド地方で反体制派を弾圧した。

この虐殺は「グクラフンディ」として知られ、死者は2万人に上るという推定もある(「グクラフンディ」は、ジンバブエの多数派であるショナ人の話すショナ語で「春雨より早くに降る、もみ殻を洗い流す雨」の意)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とロシア、核兵器は人間だけで管理すると宣言すべ

ビジネス

住友商、マダガスカルのニッケル事業で減損約890億

ビジネス

住友商、発行済み株式の1.6%・500億円上限に自

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中