最新記事

シリア情勢

イスラム国の首都ラッカを解放したが、スケープゴートの危機にあるクルド

2017年10月25日(水)19時51分
青山弘之(東京外国語大学教授)

Rodi Said-REUTERS

<10月17日、2014年以降、イスラーム国の「首都」と称されてきたシリア北部のラッカ市が解放された。しかし、主力としてラッカを解放したロジャヴァ(西クルディスタン移行期民政局)は、新たなスケープゴートにされる危機にある>

ロジャヴァ(西クルディスタン移行期民政局)の武装部隊YPG(人民防衛部隊)を主体とするシリア民主軍は10月17日、イスラーム国の「首都」と称されたラッカ市を完全制圧した。ロジャヴァは、この戦果を「テロとの戦い」の「最終局面」における勝利と位置づけている。だが実際のところ、それは彼らにとっての困難の始まりにも見える。

2017_10.jpg2017年10月23日の勢力図

シリア内戦の縮図としてのラッカ市

ラッカ市はシリア内戦の縮図とでも言える都市だ。22万人の人口を擁していた同市(現在の人口は推計で2万人)は、2011年3月の「アラブの春」波及を受け、散発的な反体制デモと治安当局の弾圧の場となった。自由シリア軍が自由と尊厳のために革命武装闘争に邁進していると信じられていた最中の2013年3月、同市は、アル=カーイダの系譜を汲むシャームの民のヌスラ戦線(現在の呼称はシャーム解放委員会)を筆頭とするイスラーム過激派と自由シリア軍からなる反体制派によって制圧され、シリア政府が最初に喪失(ないしは放棄)した県庁所在地となった。その後、2013年10月、今度はイスラーム国(当時の呼称はイラク・シャーム・イスラーム国)が反体制派を排除してラッカ市を掌握、2014年6月にカリフ制の樹立が宣言されると、「首都」と目されるようになった。

ちなみに、ラッカ市を除く13の県庁所在地は、緊張緩和地帯に含まれるイドリブ市全域とダルアー市の一部がシャーム解放委員会などからなる反体制派によって支配されている。アレッポ市は2012年半ば以降、反体制派が東部街区を支配してきたが、2016年12月にシリア政府が奪還した。ハサカ市は、そのほぼ全域をロジャヴァが支配しているが、中心部の「治安厳戒地区」はシリア政府が掌握している。ダイル・ザウル市は2014年以降、イスラーム国が包囲を続けてきたが、今年9月にシリア軍が解囲し、北東部街区でイスラーム国が籠城しているのみである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、対スイス関税15%に引き下げ 2000億ドルの

ワールド

ロシア黒海主要港にウクライナ攻撃、石油輸出停止 世

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中