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混迷カタルーニャの歴史と未来を読み解く

2017年10月17日(火)17時00分
アイザック・チョティナー(スレート誌記者)

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ヒトラー(左前)と共に歩くフランコ将軍(中央)はカタルーニャを長く弾圧した Keystone-France/GETTY IMAGES

――不利とも言えるが、裕福な土地に暮らすことができて幸運だとも言える。国庫に多く納めることに腹を立てなくてもいいのでは?

そのとおり。国富を共有することは、国内各地方の間に連帯感をもたらす基礎となる。

問題が顕在化したのは、EUに緊縮財政を強いられ、全国で予算が削減されたからだ。カタルーニャでは他の多くの地方より緊縮策が厳しく、他州よりも苦しむことになった。

こうして多くの州民は、自らをスペインという家族の一員とは見なさなくなった。それまでの連帯感が、「中央政府に搾取されている」という感覚に変わった。新しい自治憲章を否定されたことで、政府からは好意も認知ももらえないようだと思い知らされた。

――住民投票へのスペイン政府の対応をどう思うか。

言語道断の恐ろしい事態だ。多くの意味で本当に悲しくなる。治安部隊が有権者に手荒い弾圧を加えた。自治州の警官隊よりも、他の地方から動員された治安部隊の仕業だ。見るに堪えない映像だった。だが、未然に防ぐこともできたはずだ。

スペイン政府は何週間も前から、住民投票を無効にするための策をいくつも取っていた。国の野蛮な力をさらに見せつける必要はなかった。

事態がここに至るまでには、保守系勢力2者の事情があった。カタルーニャの保守派は10年の違憲判決以降に強まった独立志向に肩入れしたのだが、これは日和見主義だった。汚職と緊縮策への対応を原因とする支持率の低下に歯止めをかけようとしたのだ。独立に賛成したことなど一度もないのに、支持基盤の強化に利用した。

その一方で中央の保守系政権は、カタルーニャ問題に柔軟に対応せずに強硬姿勢を貫いたほうが選挙で有利に働く。両者は政界で同じ保守派でありながら対立し、それぞれが選挙の支持基盤を強化するという興味深い展開になった。正面衝突することは誰の目にも明らかだったが、どちらも衝突を避ける短期的な利点を見いだすことができず、相手を避けることもブレーキを踏むこともしなかった。

結果、カタルーニャ側はイメージ戦に勝った。外国の人が映像を見たら、「投票したいというだけで高齢の女性たちが頭を殴られている」と思うだろう。

しかも投票は実施された。スペイン政府は投票を阻止できなかった。それでもマリアノ・ラホイ首相は、住民投票は「実施されなかった」と述べた。中央ではずいぶん形勢不利になったとみえる。

カタルーニャの人々は危険を覚悟の上で投票に出向いた。こういう体験は子供であれ大人であれ、人格形成に必ず影響する。カタルーニャにとって大きな財産になる出来事だ。彼らはこの日を忘れないだろう。

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© 2017, Slate

[2017年10月17日号掲載]

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