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北朝鮮制裁

北朝鮮の体制は、石油の輸出制限では揺らがない

2017年10月13日(金)16時30分
ポール・マスグレーブ(マサチューセッツ大学アマースト校助教)、ユミン・リウ(ブラインドフォックス社データアナリスト))

石油禁輸擁護派はそれを見て、「やはり北朝鮮は中国から入ってくる石油を頼りにしている。だから国際社会は石油を武器に、北朝鮮に影響を与えられるはずだ」と主張する。だが、英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)のエネルギー安全保障専門家ピエール・ノエルが指摘するように、北朝鮮が石炭液化事業に投資していないのは、主体(チュチェ)思想の国もきちんとコストを計算して資源分配を決めている証拠にすぎない。石炭の液化は、北朝鮮産石炭を輸出して中国の石油を輸入するよりもはるかに高くつく。

もし石油が全く入ってこなくなったら、そのときは北朝鮮も代替燃料の確保に力を入れるかもしれない。つまり外圧に屈するよりは、エネルギーの自給自足を目指すだろう。「自国民を平気で飢えさせる体制が、外国の経済的圧力に屈することはないだろう」と、タフツ大学のダニエル・ドレズナー教授(国際政治学)は語る。

制裁にまるで意味がないというわけではない。国際的な核不拡散ルールに違反した以上、それを放置するわけにはいかない。だが、石油輸出制限が金体制に与える影響が誇張されているとすれば、中国の北朝鮮に対する影響力も誇張されている。国際社会がもっと真剣に検討すべきなのは、北朝鮮に「お仕置き」を与える価値と、北朝鮮市民の巻き添え被害のバランスだ。

石油が入ってこなくなれば、北朝鮮はすぐに降参するなどという「妄想」は、現実を認めたくない国際社会の心理の表れだ。アメリカなど各国は、自らは痛みを被らずに北朝鮮問題を解決したがっているが、この問題はあくまで政治的に解決しなければならない。それも、従来は考えられなかった条件を受け入れる覚悟が必要だ。

[2017年10月3日号掲載]

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