最新記事

映画

人類の終わりを告げる鮮やかな『猿の惑星』最終章

2017年10月12日(木)18時40分
デーナ・スティーブンズ

そのリーダーとは、猿に対して常軌を逸した憎しみを抱く、大佐と呼ばれる男(ウディ・ハレルソン)。誇大妄想で不安定だが自分なりの使命感や規範を持つこの人物を、ハレルソンは迫力たっぷりに演じている。

大佐の本拠地を目指す一行に、別の猿「バッドエイプ」(スティーブ・ザーン)と、口が利けない孤児の少女ノバが加わる。ザーンは、動物園で1匹だけで長く飼育されていたため少し頭がおかしくなった猿の役を、切なくも滑稽に演じている。

かわいらしい金髪の少女ノバには、人間と猿の橋渡しをさせようとするセンチメンタルな意図を感じた(人類の寒々とした未来ばかりが描かれるなかで彼女を登場させたくなる脚本家たちの気持ちはよく分かる)。

出来栄えでいえば、『聖戦記』は素晴らしい。これまでの2作の高いレベルを維持した最終章であるだけでなく、ビジュアルも豪華でスリル満載。しかも社会や個人の心の中にある善悪や地球の未来について厳しい問いを突き付ける。

人間の歴史が終わるという決定的な瞬間の、最も複雑で忘れ難い映画のヒーローは誰だろう。スーパーマンでもなく、人類を救う(あるいは滅ぼす)ために飛来するエイリアンでもない。テクノロジーによって高い知性を得たシーザーこそ新しいヒーロー像ではないか。

シーザーは人間が地球を長きにわたって支配してきたことに疑問を投げ掛ける。地球の主人は今のところ人間かもしれないが、大自然が圧倒的な破壊力を見せつけるラストシーンに、観客は言葉を失う。

人間はあとどのくらい地球に君臨するに足る存在なのか? 観客はそう考えながら帰途に就くに違いない。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

© 2017, Slate

[2017年10月10日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の

ビジネス

アマゾン、豪データセンターに5年間で130億ドル投

ワールド

イラン世界最大級ガス田で一部生産停止、イスラエル攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中