最新記事

北朝鮮危機

米軍は北朝鮮を攻撃できない

2017年10月10日(火)14時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

アメリカ太平洋軍グアム基地に配備された大型爆撃機B-1Bランサー Arielle Vasquez-U.S. AIR FORCE

<半世紀前に米軍機が北朝鮮に撃墜されたとき、米政府は軍事的選択肢がないことを思い知った>

アメリカ大統領のドナルド・トランプが北朝鮮を「完全に破壊する」、北朝鮮の「先は長くない」と恫喝。すると北朝鮮の外相はこれを「宣戦布告」と見なすと言い返し、北朝鮮には領空に近づく米軍機を撃墜する権利があると宣言した。

そんなことを言われるとぎょっとするし、確かに危ない状況ではある。しかし、実はこれも「いつか来た道」なのだ。

1969年4月15日のことだった。朝鮮半島沖を飛んでいた米軍のEC121偵察機が北朝鮮のミグ戦闘機に撃墜された。公海上空でのことだった。乗員31人全員が死亡した。

当時のアメリカ大統領リチャード・ニクソンと国家安全保障問題担当補佐官ヘンリー・キッシンジャー、そして統合参謀本部の面々は事件への対応策の検討に2カ月半を費やした。その概要が今は公開されている。

情報自由法の下でジョージ・ワシントン大学のアメリカ国家安全保障文書館が2010年に入手した貴重な機密文書だ。これはじっくりと読む価値がある。トランプの側近たちも同じような協議をしているだろう。そして彼らの出す結論は、48年前と大差ないかもしれない。

69年のその日、統合参謀本部からキッシンジャーに1通のメモが届いた。北朝鮮の空軍基地に対する報復攻撃について、複数のシナリオを想定したものだ。そこには「熟慮の上の積極的な対応」をすれば、侵害行為を罰するというアメリカの「決意」を示すことになる一方、そうした攻撃は「明確な戦争行為」と解釈され、「北朝鮮が(米韓)軍への総攻撃で対抗してくる可能性がある」とあった。

統合参謀本部はその後も数週間にわたり、微妙な含みのある選択肢から強引な戦法まで、いろいろと提言した。だが、どれにも決定的な問題があった。本格的な攻撃で北朝鮮の軍事力を一挙に壊滅させない限り、ほぼ確実に韓国と日本、そして域内に展開する米軍に対する報復攻撃を招くという事情だ。

不可能な「完全破壊」

しかし北朝鮮の軍事力を跡形もなく消し去ることは困難で、不可能に近かった。本気で壊滅させるつもりなら、おそらくは核兵器の使用を含む大規模な作戦となり、中国やロシアの介入を招く恐れがあった。アメリカに対する道義的・政治的な猛反発も予想された。

関係者は討議を重ねるうちにこのジレンマを痛感した。限定的な攻撃では北朝鮮のさらなる挑発を抑止できないし、報復攻撃を防ぐこともできない。大規模な攻勢をかけても、一撃で相手を全滅させることはおそらく不可能で、強力な反撃は避けられない。北朝鮮軍は軍事境界線から50キロしか離れていない韓国の首都ソウルを射程に収める火砲を大量に配備していた。

5月21日、統合参謀本部は新たな提案をした。通常兵器を搭載したB52爆撃機3機で北朝鮮の空軍基地を1~2カ所破壊するという計画だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ワールド

NZ企業信頼感、第2四半期は改善 需要状況に格差=

ビジネス

米ホーム・デポ、特殊建材卸売りのGMSを43億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中