最新記事

EU

核危機「調停力」失うEU、冷え込む北朝鮮との裏ルート

2017年10月9日(月)13時13分

10月3日、北朝鮮が約1カ月前にこれまでで最も強力な核実験を実施して以降、英仏両国が米国に緊張緩和を働きかける一方で、北朝鮮に大使館を置くEU加盟国は、同国に直接圧力をかけている。写真中央は、支持者らと写真撮影する北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長。KCNAが9月提供(2017年 ロイター)

北朝鮮が約1カ月前にこれまでで最も強力な核実験を実施して以降、英仏両国が米国に緊張緩和を働きかける一方で、北朝鮮に大使館を置く欧州連合(EU)加盟国は、同国に直接圧力をかけている。

英国とドイツのほか、チェコ、スウェーデン、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアのEU加盟7カ国のグループは9月、北朝鮮の首都平壌で少なくとも2回、北朝鮮側と公式協議を行ったと、EUの外交官3人が明らかにした。

だが、EU側は不満を感じたという。昨年の協議では北朝鮮の高官に面会できたにもかかわらず、今回出席したのは北朝鮮外務省の中級クラスの当局者だったからだ。

「北朝鮮側が局長クラスを送り込んできたため、全く成果が得られていないという感じだった」と、協議について説明を受けたというブリュッセルに拠点を置く外交官は話す。2回の協議の雰囲気は「とても堅苦しい」ものだったという。

「彼らは米国との対話を望んでいた」

ホワイトハウスはそのような対話を除外している。トランプ米大統領は、ティラーソン国務長官に対し、北朝鮮との対話を図ることは「時間を無駄」にすることだと伝えている。

米国は平壌に大使館を置いておらず、西側諸国の国民が問題に巻き込まれた際などに対応する領事業務は、いわゆる米国の利益保護国であるスウェーデンに頼っている。

最近の協議とは対照的に、文化プログラムや地域の安全保障などを話し合うため昨年チェコ大使館で開かれた会合には、北朝鮮の外務次官が出席したと、あるEU外交官は明かした。

北朝鮮に大使館を構える少数のEU加盟国政府にとって、こうした対応の変化は、国連安全保障理事会で決められた以上にEUが制裁を拡大してきたことに対する北朝鮮の怒りの表れと映る。

また、EUが北朝鮮に対する制裁強化を準備するなか、核危機で仲介役を務めようとする幅広いEUの取り組みに影響する可能性があると、平壌の同僚から説明を受けたEU外交官は言う。

2015年の歴史的なイラン核合意で議長を務めたEUのモゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、EUは北朝鮮のミサイル・核兵器プログラムを凍結するための協議を仲介する用意があると語っている。

その一方で、EUは北朝鮮への石油禁輸を検討しており、他国が追随することを望んでいる。

一部のEU加盟国政府は、ポーランドなど東欧諸国で働く北朝鮮人の就労許可を取り消そうとしている。こうした労働者の給料が北朝鮮政府が管理する銀行口座に振り込まれている疑いがあるためだ。

「北朝鮮は、EUを米国の操り人形と見るようになった。だがわれわれは、公正な仲介者であると強調したい」と、2人目のEU外交官は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「外国人嫌悪」が日中印の成長阻害とバイデン氏、移民

ビジネス

FRB、年内利下げに不透明感 インフレ抑制に「進展

ワールド

インド東部で4月の最高気温更新、熱波で9人死亡 総

ビジネス

国債買入の調整は時間かけて、能動的な政策手段とせず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中