最新記事

SF映画

2049年によみがえった『ブレードランナー』のディストピア

2017年10月25日(水)16時30分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

magc171025-blade02.jpg

捜査官K(右)は行方不明の元ブレードランナーを捜すことに Blade Runner 2049

そんななかでも、しぶとく生き残り続ける組織がロサンゼルス市警察(LAPD)だ。ロゴまで変わらない健在ぶりは、時にユーモア不足の本作の数少ない笑いどころ。ライアン・ゴズリング扮する主人公で、カフカの不条理小説の登場人物を思わせる「K」という名の捜査官は、何かというとLAPDのバッジを振りかざす。

ハリソン・フォードが演じた前作の主役デッカードは、逃亡したレプリカントを取り締まる「ブレードランナー」で、本人もレプリカントではないかという見方がある(答えは、どのバージョンを見たかによって変わるだろう)。しかしKの場合、レプリカントであることが冒頭から明らかにされる。

Kは人間への服従度を高めた新型レプリカントだという。警部補ジョシ(ロビン・ライト)の下でブレードランナーとして働き、旧型レプリカントを探し出して容赦なく処分している。

かつてのデッカードと同じく、Kの毎日は満たされない。憂鬱で孤独で、慰めはプログラミングによって作り出されたホログラフィーでKの望みのままに姿も態度も変える恋人ジョイ(アナ・デ・アルマス)だけ。だがある事件を捜査するうちに、植え付けられた偽物と思っていた自分の記憶が本物であることを示唆する証拠に出合う。ジョイが言うように、Kは人造のレプリンカントでなく「本物の男の子」かもしれないのだ。

自らの過去を解明するため、Kは行方不明になった元ブレードランナーを捜す。その正体はご想像どおりだが、おなじみのあの顔が出てくるのは物語の4分の3が過ぎてから。ようやく同じ場面に登場するゴズリングとフォードは、全く違うタイプの俳優ながら意外なことに相性がよく、共演シーンはリアルな感情に満ちている。

既視感のある設定だが

とはいえ2時間43分もある本作の長い中盤はオリジナルの焼き直しにすぎない。新型レプリカントの開発者で、ミニマリスト的なオフィスに引き籠もるニアンダー・ウォレス(ジャレッド・レト)、彼の部下で非情な女性レプリカントのラブ(シルビア・フークス)、戦車のようなスピナーで空を飛ぶKの眼下に広がる寒々しい光景......。

街角のCMはゲイシャの映像から、歩く3Dホログラフィーの巨大な裸の女に変化した。テクノロジーの未来をポルノの日常化として描くのは、『2049』において最も強烈なイメージの1つ。だが人間の欲望や性衝動は遠くない将来、デジタル的に処理されるという恐ろしいアイデアが深く掘り下げられていないのがじれったい。

「俺はおまえたちには信じられないようなものを見てきた」。前作のクライマックスで、ルトガー・ハウアー扮するレプリカントのロイ・バッティは雨のなか、寿命が尽きる瞬間を前にしてそう語る。新たな『ブレードランナー2049』は信じられないような映像で観客を魅了する。だが、見えないものまでも示唆するオリジナルの魔力は再現し切れていない。

© 2017, Slate

[2017年10月24日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中