最新記事

ソフトロボット

自重の1000倍の重量物を持ち上げる、画期的な人工筋肉が開発される

2017年10月4日(水)15時10分
松岡由希子

Credit: Aslan Miriyev/Columbia Engineering

<コロンビア大学の研究チームは、高電圧機器やコンプレッサなどの外部装置を一切必要としない画期的な人工筋肉を開発した>

シリコーンやゴムといった柔らかい素材からなるソフトロボットは、人間と安全にふれあうことができるため、看護や介護など、様々な分野においてニーズが見込まれている。

そして、ソフトロボットを人間のように柔軟に動作させるために必要となるのが、人工筋肉だ。人工筋肉とは、入力されたエネルギーを物理的な運動へと変換する機構、すなわちアクチュエーター(作動装置)の一つで、伸縮性を有する柔らかい素材でできたものをいう。

外部装置を一切必要としない画期的な人工筋肉

従来、人工筋肉は、動作させるために高電圧が必要だったり、コンプレッサ(空気圧縮機)や圧力調整器で空気圧をコントロールしなければならないなど、実用性に乏しい面があった。

米コロンビア大学の研究チームは、高電圧機器やコンプレッサなどの外部装置を一切必要としない画期的な人工筋肉を開発し、その研究成果を英科学雑誌『ネイチャー』で明らかにした。

弾力性のあるシリコーンゴムを母材(マトリクス)とし、エタノールを含む微小気泡とで構成されるこの人工筋肉は、人間の筋肉に比べて15倍伸び、3倍も強いのが特徴。3Dプリンターによって自由に成形でき、1グラムあたり約3セント(約3.4円)の低コストで製作できるのも利点だ。

3Dプリンターによって自由に成形できる

3Dプリンターによって成形された人工筋肉は、細い抵抗線を通じ、わずか8ボルトの低電圧で動作。押したり、引いたり、曲げたり、ねじれたりといった動きはもちろん、自重の1000倍もの重量物を持ち上げることもできる。実験では、6グラムの人工筋肉が6.1キログラムの物体を持ち上げられることが示された。また、この人工筋肉を摂氏80度まで熱すると常温時に比べて900%も拡張したという。

研究チームでは、今後、この人工筋肉をさらに改良し、抵抗線の代わりとなる導電性材料の導入や応答時間の短縮化などをすすめていく方針。

また、長期的には、この人工筋肉の制御を学習する人工知能の研究開発にも取り組んでいきたい考えだという。低コストで簡単に製作できるこの人工筋肉は、ソフトロボットにまつわる様々な研究開発にも大きく寄与することが期待されている。



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中