最新記事

米外交

対北朝鮮政策は、冷戦の「抑止の歴史」に学べ

2017年9月27日(水)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

脅威がなくなれば抑止力は崩れる Teri Rice/GETTY IMAGES(MISSILES), SHUTTERSTOCK

<相手に脅威を信じさせることが何より重要なのに、過剰反応とトーンダウンを繰り返す逆効果のトランプ外交>

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が繰り返す無謀な行為は、アメリカにとって脅威ではない。少なくとも、対処不可能な脅威ではない。大方の予想どおり、北朝鮮がアメリカの領土に届くミサイルに核弾頭を搭載することに成功したとしても、完全にコントロール可能だ。アメリカの都市がすぐに核攻撃の標的にされるわけでも、北朝鮮への先制攻撃が不可避になるわけでもない。

そろそろ北朝鮮について大騒ぎするのはやめるべきだ。金は慈悲深い指導者でも無力な男でもないが、最近のワシントン周辺の議論はヒステリック過ぎて、かえって事態を悪化させている。

北朝鮮のミサイル発射や核実験に過剰反応すべきでない理由は2つある。まず、核抑止力が正常に機能していること。つまりX国がY国への核攻撃を考えたとしても、確実に核兵器で反撃されると分かっている場合は、攻撃を思いとどまるという考え方だ。さまざまな国際関係史を振り返ってみても、この理論ほど過去の記録によって有効性が実証されているものはない。

第2に、アメリカは陸、海、空のどこからも発射できる数千発の核兵器を保有している。北朝鮮がアメリカを核攻撃しようとすれば、報復攻撃による絶滅を覚悟しなくてはならない。

H・R・マクマスター米大統領補佐官(国家安全保障担当)は8月のABCテレビとのインタビューで、古典的な核抑止論は北朝鮮のような体制には当てはまらないと主張した。理由は、北朝鮮が「近隣諸国に継続的な脅威」を与え、「自国民に言語に絶する残虐行為」を課し、「体制に反対とみられる者」は金王朝の一族でも殺害または投獄する体制であることだという。

切れ者のマクマスターらしからぬ不可解な発言だ。まず、冷戦時代のソ連の指導者も金と同じように残忍な行動を繰り返したが、アメリカは数十年にわたり、数万発の核兵器を保有するソ連の核攻撃を抑止できた(北朝鮮が保有する核兵器はせいぜい10数発だ)。

第2に、マクマスター自身が言うように、金がこれまで殺意を向けてきた相手は「体制に反対とみられる者」だ。言い換えれば、主要な動機は「自分を守る」ことだと考えられる。この種の指導者にこそ、古典的な核抑止論は非常にうまく当てはまる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中