最新記事

米軍事

米軍アフガン増派、「勝利なき戦争」という大誤解

2017年9月9日(土)11時40分
エミール・シンプソン(ハーバード大学研究員、元英陸軍将校)

駐留米軍は治安維持に徹するのが得策 Omar Sobhani-REUTERS

<アフガニスタンの紛争は「戦争」ではなく警察活動。決定的勝利ではなく相対的安定を目指すべきだ>

8月21日、ドナルド・トランプ米大統領は増派を含む新たなアフガニスタン戦略を発表し、「アメリカ人は勝利なき戦争にうんざりしている」と語った。厭戦ムードはいつか勝利の瞬間がやって来るはずという期待の裏返し。だがそうした期待はアフガニスタン紛争の本質を誤解している。

アフガニスタンでは01年後半のタリバン政権崩壊以来、アメリカとその盟友が戦略的な問いを突き付けられてきた――勝利とは何か、つまり、これがどう決着するのか。そもそも「これ」は何なのか。確かにアフガニスタンは一種の戦争状態にあるが、勝利の決定的瞬間が見込める代物ではない。むしろ武装した治安維持活動と呼ぶべきだろう。

アフガニスタンでは治安部隊は戦場での証拠集めに忙しい。武器、空になった弾丸ケース、簡易爆発物(IED)の部品、文書、携帯電話、爆薬を使った痕跡......。反政府勢力の戦闘員を拘束して裁判にかけても証拠がなければ有罪にできないからだ。しかも身柄を拘束しても、賄賂で裁判の前に自由の身になることが珍しくない。

内戦と国家間の戦争との区分は単純明快だ。それだけに、内戦にも他国との戦争のような決定的勝利を期待するとすれば驚きだ。

内戦における治安維持は周知のとおり継続的な活動だ。勝利の瞬間があるわけではなく、目的はむしろ相対的な「安定」の実現と維持であって、それは常に一時的なものでしかない。

アフガニスタン紛争を武装した治安維持活動と考えるのは歴史的に見ても理にかなっている。北西辺境州と呼ばれた現在のパキスタンとアフガニスタン国境に挟まれた無法地帯がイギリス領インドの一部だった1849~1947年、一部のパシュトゥン人勢力がこれに反発。イギリスは治安維持のために大規模派兵を繰り返した。

【参考記事】なぜ米海軍は衝突事故を繰り返すのか

地道な活動がカギを握る

イギリスによる鎮圧作戦は1900年以前だけで60回。重要なのはこの1世紀に及ぶ武装した治安維持活動に終わりがなかったことだ。1947年は英軍が撤退したにすぎず、今もパキスタンの多くの部隊がこの地域の治安維持に当たっている。

「勝利」は戦争の言葉であって、それをアフガニスタンの内戦に無理やり押し込めば誤解を招きやすい。内戦の結果は決定的勝利ではなく相対的安定という観点で評価されるのが普通だが、場合によっては「決定的勝利」もあり得る。反乱勢力が強大で、通常の軍隊を派遣して戦争と区別がつかなくなった場合だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:政策株売却で変わる株主構成、対話支援

ワールド

イランと米国に2段階紛争終結案提示、パキスタン仲介

ワールド

中国、デジタルヒューマン規制案を公表 明確な表示を

ワールド

トランプ氏、カリフォルニア州知事選でFOX元司会者
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 3
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「攻撃的知能」を解剖する
  • 4
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 9
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 8
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中