最新記事

人種問題

「ユダヤ人はシャワーを浴びろ」でスイスのホテルが炎上した理由

2017年8月18日(金)19時01分
ニューズウィーク日本版編集部

Twitter

<スイスのホテルで、ユダヤ人を名指ししてプール前にシャワーを浴びるよう注意した掲示が非難を浴びている。なぜこんな掲示を? そしてなぜ炎上したのか?>

ユダヤ人はプールの前にシャワーを浴びてください――スイスのホテルに掲げられたそんな注意書きが、激しい非難を巻き起こしている。イスラエル当局も「最も悪質で最も醜悪なたぐいの反ユダヤ主義行為」と強い言葉で抗議したほどだ。

炎上しているのは、スイス東部のアローザにあるアパートメントホテル「パラディース」。宿泊した正統派ユダヤ教徒の一家が掲示にショックを受け、ツイッターに画像を投稿したため瞬時に広まった。

(「女性、男性、お子様を含むユダヤ人のお客様へ。泳ぐ前にシャワーを浴びてください。規則を破れば、あなたのせいでプールを閉鎖せざるをえません」)


宿泊した一家はイスラエルのテレビの取材に応え、「ホテルのスタッフの接客はとてもよかったが、この掲示を見て衝撃を受けた」と語った。

イスラエル当局も黙ってはいなかった。ツィッピー・ホトベリー外務副大臣はこの「反ユダヤ主義」事件について駐スイスのイスラエル大使と議論し、責任者を処罰すべきだと主張した。

ユダヤ人を名指ししたことが差別的であるだけでなく、「シャワー」という言葉が特に神経に触った可能性もあると、メディア関係者らは指摘する。かつてユダヤ人たちがホロコーストでシャワーと称してガス室に送られた過去があるからだ。

同ホテルには厨房にもユダヤ人に向けた掲示があった。それによれば、「ユダヤ人のお客様へ。冷蔵庫は午前10~11時と午後4時半~5時半以外は使用禁止です。スタッフが常時迷惑を掛けられたくないことをどうぞご理解ください」。

非難の高まりを受け、同ホテルの支配人ルス・トーマンは地元紙などの取材に応え、「反ユダヤの意図は全くなかった」と釈明した。「言葉の選び方に問題があったかもしれない。ユダヤ人と書く代わりに全宿泊客と書くべきだった」

「Tシャツのままプールに」「コーシャ食品を保存」

トーマンの主張によれば、同ホテルには正統派ユダヤ教徒を含むユダヤ人の宿泊客が多く、彼らの中にはTシャツなど服のまま、シャワーも浴びずにプールに入る人がいるという。また、冷蔵庫については、コーシャ食品(ユダヤ教の教義に従った食品)を保存するためユダヤ人宿泊客だけが利用したがるのだと言った。

だが実際のところ、マナーをわきまえないユダヤ人客が多かったのかは明らかでない。正統派ユダヤ教徒では、公共のプールなどでは男性専用と女性専用を分けること、女性はムスリム女性の水着ブルキニに似た体を覆う水着を着ることなどが定められているが、シャワーを浴びず服のままプールに入るのが習慣とは言えない。

むしろ問題なのは、欧米で今も根強く残るどころか、ここ20年で勢いを増しつつある反ユダヤ主義だ。アメリカで16年に発生したユダヤ人に対する嫌がらせや犯罪などの事件は1266件で前年比34%増。イギリスでは今年これまでに767件のユダヤ人ヘイト事件が起こり、過去最高を記録している。

【参考記事】相次ぐユダヤ人差別発言でドイツの極右政党AfDも終わった?
【参考記事】ユダヤ人に「集団移住」を呼びかけるネタニヤフ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ

ワールド

ウクライナ、和平合意後も軍隊と安全保障の「保証」必

ビジネス

欧州外為市場=ドル週間で4カ月ぶり大幅安へ、米利下

ビジネス

ECB、利下げ急がず 緩和終了との主張も=10月理
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中