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北朝鮮情勢

北の譲歩は中国の中朝軍事同盟に関する威嚇が原因

2017年8月16日(水)08時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

それを受けて金正恩はトランプ発言を「全く無意味」と一蹴し、「グアム島周辺海域(沖合から30~40km)に中距離弾道ミサイル火星12を同時に4発、発射する」と言い始めたのである。

国連制裁決議が出された後に「グアム島海域へのミサイル発射」計画を口にしたので、国連制裁が功を奏したからではない。

中国が賛成票に回ったことは、すなわち中国が実行することを意味しているということは、北朝鮮には分かっていたはずだ。14日に中国の商務部が実行するという声明を出したからといって、それにより譲歩をするような北朝鮮ではない。

核実験を控えていることが何よりの証拠

今年4月初旬に米中首脳会談を終えた後に、トランプは「中国なら必ずやってくれる」と習近平を褒め殺しにして追い込んだことがある。その結果中国は遂に「北朝鮮がこれ以上暴走を止めなければ、中朝軍事同盟を考え直す必要がある」旨の社説を、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」に載せたことがある。

4月中旬に入り、北朝鮮が6回目の核実験を実行に移すことを知った中国は激怒し、「もし実行したら、直ちに中朝国境線を陸路、空路、海路ともに完全封鎖する」と北朝鮮に警告した。それを受けて、北朝鮮は核実験だけは控えてきたが、その事実をCNNにリークされてしまったことを知った金正恩はメンツを無くした。そこで5月14日、習近平が中国建国後、最も大きな中国主催の国際サミットと位置付けた「一帯一路国際協力サミット」の開会の挨拶をする晴れの舞台の直前を狙って、ミサイルを発射。習近平の顔に思い切り泥を塗った。詳細は「習近平の顔に泥!――北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?」に書いた。

つまり、核実験に関しては中国に脅されたので暫時実行していないが、ミサイルに関しては威嚇されてなかったので、発射し続けた。

そこで今般は、ミサイル発射に関して、北朝鮮にとって一番きつい「中朝軍事同盟の破棄」を示唆されたため、これも実行を延期したものと考えることができる。

コラム「米朝舌戦の結末に対して、中国がカードを握ってしまった」で述べた「トランプ&習近平」電話会談では、アメリカが中国の要求を一定程度、飲んだ形だ。そのコラムでも書いたように米朝は水面下での接触をしているが、その接触は8月4日のコラム<ティラーソン米国務長官の「北朝鮮との対話模索」と米朝秘密会談>で詳述したように、早くから行なわれていた。

だから、中国の中朝軍事同盟に関する威嚇だけでなく、もちろん米朝の努力も功を奏していただろう。

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