最新記事

中朝関係

北朝鮮の核開発を支える中朝貿易の闇

2017年8月8日(火)11時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

北朝鮮は核ミサイルの開発を急ピッチで進めている KCNA-REUTERS

<本気になればできるはずなのに中朝貿易を取り締まらない、習近平の胸の内と試されるトランプの本気度>

中国・遼東半島の東の付け根に位置する町、丹東。最近では高速鉄道の駅ができて、高層マンションも立ったが、少し行けば寂れた国営工場と、陰気くさいビルがぽつりぽつりと立つだけの活気のない町だ。

だが丹東は、中国で最も重要な町の1つ。そして鴨緑江の向こう側に位置する北朝鮮にとっても、丹東は生命線と言っていいくらい重要な町だ。北朝鮮の対外貿易の約85%は中国が相手だが、その大部分は丹東経由なのだから。

丹東を経由して北朝鮮に入ってくる物資には、核爆弾とその運搬手段(ミサイル)の開発に必要な原材料や機材が含まれる。さらに重要なことに、こうした核・ミサイル開発に必要な資金の調達や支払いでも、丹東の銀行が窓口の役割を果たしている。いずれもアメリカと国連が制裁の対象としている違法な活動だ。

そんな制裁などあざ笑うかのように、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は、核・ミサイルの開発を進めてきた。アメリカの独立記念日である7月4日には、アラスカに到達可能な射程距離とされるICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を実施。強気な発言を繰り返してきたドナルド・トランプ米大統領を挑発した。7月29日には、2度目のICBM発射に成功するなど緊張を高め続けている。

【参考記事】北朝鮮2度目のICBM発射実験は、アメリカと日韓を分断するワナ

トランプはこれに先立つ6月20日、中国の影響力によって北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止する戦略がうまくいっていないことを暗に認め、「少なくとも中国が努力したことは分かっている」とツイートした。

だが、中国は本当に北朝鮮に核開発を思いとどまらせるため、十分な努力をしてきたのか。「ノー」というのが、アメリカと一部のアジア諸国の専門家の見解だ。最近ホワイトハウスがまとめた対北朝鮮政策の見直しを受け、トランプ政権の内部では、アメリカと同盟国は北朝鮮に対する圧力をもっと強化できるという声が高まっている。

問題は、その方法が1つしかないことだ。つまり、北朝鮮に核開発に必要な資金とデュアルユース技術(民生用と軍事用の両方に使える技術)をもたらす中国企業を取り締まることだ。

中国政府を怒らせてもいいなら、それを実行するのはさほど難しくないだろう。北朝鮮絡みのビジネスをしている中国企業は5000社以上あるが、貿易自体は一握りの大手企業が独占している。だが、アメリカがこれらの企業を直接取り締まれば、米中関係にヒビが入りかねない。だから米政府は6月、北朝鮮との取引関係が著しく大きいとみられる10社(個人を含む)を取り締まるよう中国政府に要請した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、イランの核兵器完全放棄望む 特使派遣の

ビジネス

金価格、年内に3000ドル割れも 需要低迷と成長見

ビジネス

韓国、対米通商交渉を加速へ 米韓首脳会談は中止

ワールド

貿易協議で合意の可能性あるが日本は「タフ」=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中