利上げの条件そろいつつあるが、米経済下振れに警戒感=日銀9月会合要旨
写真は日銀本店の外観。都内で1月撮影。REUTERS/Issei Kato
Takahiko Wada
[東京 5日 ロイター] - 日銀が9月18―19日に開いた金融政策決定会合では、複数の委員から利上げに向けた条件が整いつつあるとの指摘があったが、それらの委員も含めて多数が米経済の下振れリスクや海外経済の影響を受けやすい日本経済の特性を理由に、利上げ決定には慎重な意見を示していたことが明らかになった。
日銀が5日、決定会合の議事要旨を公表した。この会合では高田創審議委員、田村直樹審議委員が0.75%への利上げを提案したが、反対多数で否決した。
1人の委員は、日本経済は内需が外的な負のショックに対して脆弱な傾向があるとした上で「金利の正常化を進める上では、ハードデータをもう少し確認してから判断しても遅くない」と述べた。ある委員は「利上げに向けた条件は次第にそろいつつある」とする一方で、米国経済が減速局面に入る可能性もあることを踏まえると「市場にサプライズとなる現時点での利上げは避けるべきだ」と主張した。
別の1人の委員は、国内の経済状況だけから判断すれば、前回の利上げから半年以上が経過しており「そろそろ再度の利上げを考えてもいい時期かもしれない」が、「米国経済の落ち込みの程度の目途がついていない」として、当面の金融政策運営は現状維持が適当との認識を示した。
先行きの政策運営について、多くの委員が米国をはじめとする世界経済の動向、関税政策が日本企業の収益や賃金に与える影響、食料品価格含めた物価動向の3点を点検ポイントに挙げた。ある委員は、企業収益や春闘(春季労使交渉)の「事前情報」などからここ数年の賃上げの流れが途切れないことが「ある程度の確度を持って予想できるかが重要だ」と述べた。
1人の委員は、経済・物価は日銀の見通しに対して「オントラック」(軌道に乗っている)とした上で、経済や物価が「大きく軌道を外れなければ、ある程度定期的な間隔で政策金利の水準を調整していくべきだ」と話した。
別のある委員は、米国経済の帰すうが見えることを待つことで得られる知見もあるが「国内の物価との関係では待つことのコストも徐々に大きくなっていく」ため、利上げしないで情報やデータの蓄積を待つことの「コスト・ベネフィットやそれに伴うリスクの比較考量が必要になっていく」と指摘した。
待つことのコスト・ベネフィットを考える際には「わが国の場合、長年にわたるデフレを経験していることも考慮する必要がある」(複数の委員)との声も出た。このうちの1人の委員は、需給ギャップがほぼゼロに達しており物価の上振れリスクにも留意が必要だが「わが国の金融政策には、インフレ期待を2%にアンカーさせるという他の中央銀行にはない特別な配慮が必要だ」と述べ、「アンカリング(定着)が不十分と考えられるうちは、緩和的な金融環境をできるだけ維持し続けることが適当だ」と主張した。
<基調的な物価上昇率>
基調的な物価上昇率についても、議論が展開された。複数の委員は、基調的な物価上昇率を政策運営の上で「非常に重要な概念」と位置付ける一方で、正確な計測が難しいことなどを踏まえると「具体的な水準の特定に議論の焦点が当たり過ぎれば、経済・物価見通しとの関係で適切に政策を判断していくという金融政策の基本的な考え方をうまく伝えられなくなる可能性がある」と述べた。
このうち1人の委員は、基調的な物価上昇率が「2%にかなり近接した状況」の中、実際の物価上昇率を重視したコミュニケーションも必要だと指摘した。別の1人の委員は、基調的な物価上昇率の説明に偏り過ぎず「展望リポートにおける経済・物価見通しを政策運営上のコミュニケーションの中心に据えることが適当ではないか」と述べた。
<ETF売却、政府「必要あれば柔軟対応を」>
日銀はこの決定会合で、保有する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の売却開始を決めた。ETFについては、簿価で年間3300億円ずつ売却していく。
会合では、ある委員が「単純計算で処分に100年以上かかる」と指摘されるだろうが「それがかえって安心材料となり、市場への影響を軽減することにつながる」と述べた。処分ペースの見直しについては、予見可能性の観点から「大きな状況変化があったときに限定することが望ましい」(ある委員)との意見が出た。
決定会合2日目、政府からの出席者が会議の一時中断を求め、議長を務める植田和男総裁が承諾した。内閣府の出席者はETF・REITの売却について「市場との適切なコミュニケーションの下、状況に応じて、必要があれば柔軟な対応をお願いする」と発言した。財務省の出席者も「適切にご判断いただきたいが、市場の状況を注視し、必要があれば柔軟な対応を期待する」と述べた。
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