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監督インタビュー

「路上の子供たちは弱者じゃない」 話題作『ブランカとギター弾き』の長谷井宏紀監督に聞く

2017年8月2日(水)11時30分
大橋 希(本誌記者)

ブランカ(右)はギター弾きのピーターと出会い、 他人との絆を初めて知る ⓒ2015-ALL Rights Reserved Dorje Film

<フィリピンのスラムに暮らす少女と人々の絆を描いた『ブランカとギター弾き』で長編デビューを果たした長谷井宏紀監督が、映画製作にかける情熱を語った>

長谷井宏紀監督の長編デビュー作『ブランカとギター弾き』(日本公開中)は、フィリピンの首都マニラの路上で暮らす少女ブランカ(サイデル・ガブテロ)の物語。孤児のブランカはある日、母親をお金で買うことを思いつく。そして盲目のギター弾きピーターと旅に出た先で、歌でお金を稼ぎ始めるが......。

上映時間80分ほどの中に、路上生活の子供たちのたくましさや人間同士のつながり、どきどきのドラマがぎゅっと詰まっている。そして頻繁にあることではないが、作り手が愛情を込めて楽しんで製作していることが画面からじわじわと伝わってくる作品だ。

ベネチア国際映画祭の新人育成プロジェクトに選ばれて製作された作品であり、15年の同映画祭ではマジックランタン賞(若者から贈られる賞)とソッリーゾ・ディベルソ賞(ジャーナリストから贈られる外国語映画賞)を受賞。本誌・大橋希が長谷井に話を聞いた。

◇ ◇ ◇


――20代の頃にフィリピンのスモーキーマウンテン(スラム)に何年か通ったそうで、それが映画につながったと思うが、フィリピンに行き始めたきっかけは。

フィリピンに行ったのは最初は好奇心から。でも入ってみると、そこでいろんなことに気付く。それを映画という形で表現できないかな、と思ってからが長かった(笑)。

自分は小さい頃から、差別や貧困というものに対してすごく疑問を持っていた。かなりパーソナルな話ですが、うちは母子家庭で、そういう意味で「違い」というものに対する感覚が身についていたんだと思う。「違う」というのは何なんだろうと、すごく興味があった。

例えば牛や鶏のお肉を食べるじゃないですか。それは自然のサイクルの一環で、感謝して食べて、それが人間から出て行って、最後は人間も死んで土に帰る。そこに犠牲は付き物だが、捧げるものと捧げられるものが循環している気がする。でも人間社会の犠牲って回っていない。虐げられている人はどんどん虐げられていき、その先がない。それに対する疑問が小さい頃から漠然とあったのかもしれない。

――脚本を執筆するのも初めてで、最初に書き上げたものは「これじゃ8時間の映画になる」と言われたとか。そのあたりもベネチアのワークショップで学んだ?

最初に書き始めたとき、ドイツ人プロデューサーのカール・バウハウトナーからさんざんダメだしを受けて......。彼は14年に亡くなったが、その後も自分は書き続けて、映画の構成とかドラマツルギー(劇作法)を自分なりに勉強していた。ベネチア映画祭のワークショップで、それに磨きをかけた感じ。

【参考記事】麻薬と貧困、マニラの無法地帯を生きる女の物語『ローサは密告された』

――エミール・クストリッツァ監督(『アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』)との縁があり、彼のセルビアの家に2年ほど住んでいた。クストリッツァはアーティストを住まわせることをよくやっていた?

創作支援のレジデンシーという感じで滞在した人は自分以外にいないと思う。家族の一員として認めてくれて、ご飯も食べさせてくれたし。そこは彼が持っている村なんだけど、リゾートみたいな感じで、宿泊施設があって映画祭もやっていて、ジム・ジャームッシュ監督とか、ニキータ・ミハルコフ監督とか、ジョニー・デップさんとかが来ちゃう。そういう人たちとフランクに会えるような場所だった。

エミールの言葉で印象的だったのは、「グローバルに世界を見て、ローカルに立て」。それはずっと心にある。それは日本で映画を撮れていない自分にはまだできていないこと。

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