最新記事

医療

HIVが「事実上治癒」した常識破りの南アフリカ9歳児

2017年8月1日(火)16時41分
ニューズウィーク日本版編集部

世界最大のHIV感染者を抱える南アフリカ(本文の9歳児とは関係ありません) Siphiwe Sibeko-REUTERS

<感染すれば一生治療から逃れられない、とのHIVの常識を覆し、8年以上治療をせずにHIVウイルスが検出されない事例が発表され、研究者たちを驚嘆させている。カギを握るのは何か?>

ひとたびHIVに感染すれば、エイズ発症や症状を抑えるために一生治療を続けなければならない――それが常識だ。だが7月24日、世界の研究者たちを驚嘆させる事例が発表された。

出生時にHIV感染者の母親から母子感染した南アフリカの9歳の子供が、8年以上治療をしていないのにHIVウイルスが検出されない「寛解」の状態であることが明らかにされたのだ。

この9歳児は生後9週で臨床試験に参加。複数の抗HIV薬を同時に内服する「強力な抗ウイルス療法(ART)」を40週間受けた。当時、生後間もないHIV感染児にARTを実施するのは一般的ではなかったが、143人の無作為抽出の被験者の1人として臨床試験に加わった。

40週後に血液中からウイルスが検出されなかったため、この子供は治療を中止。以来9歳になった現在まで、ウイルスのない状態が続いている。BBCは「事実上の治癒」と報じた。

パリで行われた国際エイズ学会でこの事例を発表したヨハネスブルクの研究者エイビー・ビオラリは「私の知る限り、早期に無作為抽出ARTを受けた中で世界初の事例だ」としている。

【参考記事】Picture Power エイズと生きる 過酷な現実と希望

同様の過去2例と共通する「超早期の集中的治療」

HIVウイルスは体内の免疫システムを攻撃し、感染者をさまざまな病気にかかりやすくする。HIV感染者の免疫機能が低下し、指標である23の合併症のうちいずれかを発症した状態がエイズ(後天性免疫不全症候群)だ。

その治療法として、最近では早期のARTが主流になっている。以前に比べて副作用などが飛躍的に改善され、多くの感染者に取り入れられているが、それでも吐き気や不眠症、貧血などに苦しむ患者は多い。

今回の南アフリカの子供の事例について、英国HIV協会を代表して取材に応じた英インペリアル・カレッジのサラ・フィドラー教授は「専門的な観点からは完治とは言えない」としながらも「血中にHIVウイルスがなく、同年代の子供たちと比較して免疫状態も正常だ」と言う。

実はこれまでにも、HIV感染者が長期間治療せず、ウイルスも検出されずに過ごしたケースは、世界で2例だけ存在した。

1人は2010年にミシシッピ州で誕生した女児で、母親から母子感染し、生後間もなく高レベルの抗ウイルス治療薬投与を開始。1歳半で治療を中止したが3歳までウイルスが検出されない状態が続いた。ただ、2014年に再びHIVウイルスが検出され、もはや寛解ではないと医師が判断。ARTを再開することになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、教育省解体・職員解雇阻止の下級審命令取り

ワールド

トランプ氏、ウクライナに兵器供与 50日以内の和平

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中