Picture Power

エイズと生きる 過酷な現実と希望

Access to Life

Photographs by Magnum Photographers

エイズと生きる 過酷な現実と希望

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HIVに感染し治療を受けるカッシィ(3)と母のマリアム(31)。二人ともエイズを発症したが、家を追い出されるのを恐れ、一緒に暮らす多くの親類には自分たちの病気のことは話していない(マリ) Paolo Pellegrin-Magnum

 80年代末頃から90年代前半、ルドルフ・ヌレエフ、ロバート・メイプルソープをはじめの著名なアーティストたちがエイズ(後天性免疫不全症候群)によって次々と命を奪われ、天気予報より新聞の死亡欄が目を引く時代があった。その後、抗HIV(ヒト免疫不全ウイルス)薬が開発され複数を併用することで、先進国ではエイズは死病から慢性病となったが、アフリカやアジアの発展途上国ではエイズ治療が可能になり始めてから、さほどの年月は経過していない。

 写真家集団マグナム・フォト世界基金が共同製作で「命をつなぐ」写真展(映像を含め約550点を展示)を開催する。マグナム所属の8人の写真家たちが、マリ、インド、ハイチ、ロシア、ペルーなど9カ国のエイズと闘う30人あまりの抗HIV治療開始前と数ヶ月後をカメラに収めたものだ。順調に回復し再起を果たした笑顔は希望にあふれている。
 
 多くの命が救われる一方で、撮影に参加した本誌フォトグラファーのパオロ・ペレグリンは「(2度目にマリを訪れた際に)私が取材した人のうち、2人が亡くなっていた。おそらく治療開始が遅すぎたのと、最低限の生活水準すら保てなかったからだろう」と語る。同じくアレックス・マヨーリはロシアのある患者の死に際して「他にも問題がありすぎて、まるで既に死んだ人間を相手に闘っているようなものだった 」と言う。

 エイズのため仕事ができずに陥るさらなる貧困、偏見による孤立など、 エイズと闘うと同時に乗り越えなければならない様々な困難が襲いかかる。写真家の独自の視点によって浮き彫りにされた一人ひとりの人生が、治療薬はもちろんのこと、彼らが必要とするものは何かをあらためて問いかける。

――編集部・片岡英子

世界基金/マグナム・フォト共同製作写真展「命をつなぐ」
東京の有楽町朝日スクエア・ギャラリーにて9月5日(日)から22日(水)まで

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