最新記事

中国

中国「三峡ダム」危機--最悪の場合、上海の都市機能が麻痺する

2017年7月3日(月)06時52分
譚璐美(作家)

そればかりではない。四川大地震が発生した同じ2008年、竣工を目前に控えた三峡ダムで試験的に貯水が開始されると、下流域でがけ崩れと地滑りが頻発した。この年の9月までに発生したがけ崩れと地滑りは、合計32カ所、総距離33キロに達し、崩れた土砂の量は約2億立方メートルにのぼった。

その後の調査で、地盤の変形などが合計5286カ所見つかり、大きなひずみが生じていることが判明した。ダムの構造物や防水壁には約1万カ所の亀裂が見つかり、補修に奔走した。

そして2009年、三峡ダムが完成すると、今度は気候不順が起きた。貯水池にためた膨大な量の水が蒸発して大気中にとどまり、濃霧、長雨、豪雨などが発生するようになったのだ。

気候不順は年々激しくなり、2013年までに、南雪災害、西南干ばつなどの災害が相次いだ。2016年にも豪雨による洪水が発生。エルニーニョ現象が原因だとされたが、死者、行方不明者は128人にのぼり、中下流域で130万人が避難を余儀なくされた。

大地震が次々に起きた。2008年の四川大地震以外にも、汶川大地震、青海省大地震など、毎年のように大小の地震が発生した。2014年には、三峡ダムから約30キロ上流にある湖北省でマグニチュード4.7の地震が連続して2度起きている。

総じてみれば、人工物である三峡ダムが天気や地震にまで影響を及ぼすとは、まるで信じられないような話ではある。

水が流れず、貯水できず、解決策も見いだせない

だが、三峡ダムにとって、さらに深刻な事態がもちあがっている。長江上流から流れて来る砂礫で、ダムがほぼ機能不全に陥り、危機的状況にあることだ。

怒涛のように押し寄せる大量の砂礫で貯水池が埋まり、アオコが発生してヘドロ状態になっている。ヘドロは雑草や発泡スチロールなどのゴミと一体になり、ダムの水門を詰まらせた。ゴミの堆積物は5万平方メートル、高さ60センチに達し、水面にたまったゴミの上を歩ける場所があるほどだという。地元では環境団体などが毎日3000トンのゴミを掻き出しているが、お手上げ状態だとされる。

重慶市でも、押し寄せる砂礫で長江の水深が浅くなった。水底から取り除いた砂礫は50メートルも積みあがった。重慶大橋付近の川幅はもともと420メートルあったが、橋脚が砂礫に埋もれて砂州となり、今では川幅が約半分の240メートルに狭まっている。大型船舶の航行にも著しい支障をきたしている。

水が流れず、貯水できないダムなど何の役にも立たないが、三峡ダムが周囲に及ぼす悪影響は、この先、増えることはあっても減ることはないだろう。中国政府も技術者も根本的な解決策を見いだせず、すでに匙を投げてしまっているからだ。だれも責任を取ろうとする者がいないまま、今も三峡ダムは放置されている。

【関連記事】
世界最大の中国「三峡ダム」に決壊の脅威? 集中豪雨で大規模水害、そして...
中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB景気先行指数、8月は予想上回る0.5%低下 

ワールド

イスラエル、レバノン南部のヒズボラ拠点を空爆

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中