最新記事

中東

サウジアラビアはトランプ訪問に備えてロビイストを雇っていた

2017年6月2日(金)18時00分
エミリー・タムキン

サウジアラビアの歓待を受けダンスに参加したトランプ Jonathan Ernst-REUTERS

<オバマ前政権とうまくいかなかった反省から、大統領が誰になっても揺るがない関係構築を目指す>

ドナルド・トランプ米大統領がリヤドの空港に降り立ったとき、サウジアラビアは騎馬隊と戦闘機の歓迎フライトで豪勢に出迎えた。だが、本当の力の入れようはそれどころではなかったことが明らかになった。

米司法省に提出されたCNNの情報によると、トランプがサウジ訪問を公式に発表した翌日、サウジアラビア内務省はアメリカのロビー団体を3社、雇い入れた。うち1社はかつてのトランプの顧問たちが働くソノラン・ポリシー・グループだ。契約金は540万ドル(約6億300万円)だという。

【参考記事】サウジ国王御一行様、インドネシアの「特需」は70億ドル超

サウジアラビアがロビー団体を使うのは珍しい。ワシントンでのロビー活動には通常、個人的なコネクションを頼ってきたからだと、米シンクタンク、大西洋協議会のビラル・サーブは言う。例えば、サウジアラビアの王子で10年以上にわたり駐米大使を務めたバンダル・ビン・スルタン王子は、ブッシュ一族と親しい友人関係にあった。

しかし、つながりは失われた。ジョージ・ブッシュ元米大統領の後任に就いたバラク・オバマ前米大統領はサウジアラビアをよく思っていなかった。サウジ側も、仇敵イランに近づくオバマが嫌いだった。このときサウジは、米政府への働きかけには戦略的なコミュニケーションが必要だということを実感した、とサーブは言う。

サウジアラビアの学習は早かった。CNNによると、ワシントンだけで既に28件のロビー契約を結んでいる。世界有数の規模だ。

サウジアラビアの関心はただの関係改善ではなく、トランプが合意した1100億ドルの武器輸出のような契約を勝ち取ることでもない。アメリカのリーダーが誰であるかに関わらずワシントンでの政策形成に影響を与えることができるよう、より積極的な姿勢で臨むことだ。

米議会は昨年、オバマの拒否権を初めて覆し、2001年のアメリカ同時多発テロ事件(9.11)のテロ攻撃に関与したという理由で遺族がサウジアラビアなどの外国政府に損害賠償できる、いわゆる「サウジ法案」を成立させた。

この流れを押し返すために、サウジアラビアはこれから何年も、多忙な日々を送ることになるだろう。

From Foreign Policy Magazine

【参考記事】アメリカ離れを加速させるサウジの不信と不満
【参考記事】大胆で危険なサウジの経済改革

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化

ビジネス

ECB、政策の柔軟性維持すべき 不確実性高い=独連

ワールド

韓国、対米通商交渉で作業部会立ち上げ 戦略立案へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中