最新記事

イスラム過激派

アジアに迫るISISの魔手 フィリピン・ミンダナオ島の衝撃

2017年6月17日(土)10時38分

6月3日、フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィ市で先月から続いている戦闘の発端は、数十名のイスラム主義武装勢力が刑務所を襲撃し、警備員らを降伏させたことだった。写真は5月31日、黒煙が立ち上るマラウィ市のビル(2017年 ロイター/Romeo Ranoco)

フィリピン南部ミンダナオ島のマラウィ市で先月から続いている戦闘の発端は、数十名のイスラム主義武装勢力が刑務所を襲撃し、警備員らを降伏させたことだった。

「キリスト教徒を引き渡せ、と彼らは言った」。現地の刑務局の副局長を務めるファリダ・P・アリ氏はその時の様子を語る。「刑務所職員にキリスト教徒は1人しかいなかったため、気づかれないように彼を服役者のなかに紛れ込ませた」

過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓う「マウテグループ」と呼ばれる武装勢力の戦闘員は、警備員を脅しつけ、服役者を怒鳴りつけた。だが、キリスト教徒の職員を引き渡す者はいなかった。

「戦闘員が服役者たちを解放したため、その職員も逃れられた」とアリ氏は言う。

これは喜ぶべき瞬間だった。だがそれから数時間のうちに戦闘員たちは市域の大半を掌握し、警察署を攻撃して武器弾薬を奪い、道路を封鎖し、市内に接近する主要な経路に狙撃手を配置した。こうした襲撃によって、これまでに戦闘員を含めた約180人が死亡し、約20万人に上る住民の大半はマラウィ市を逃げ出した。

ミンダナオ島でマウテグループと同盟組織がマラウィ市を占拠したことは、中東で支配地域を失いつつあるISが、東南アジアにおいて拠点を築いており、ここ数年イラクやシリアで見られた残虐な戦術をこの地域に持ち込みつつあることを示す、最大の警告である。

今回の事件は、ISを支持するさまざまなグループ勢力を糾合してマラウィを占拠するという高度な作戦だったという証拠が集まりつつある、と東南アジア諸国で国防などを担当する政府当局者はロイターに語った。

地元マラウィの出身者だけでなく、サウジアラビア、パキスタン、チェチェン、モロッコといった遠方からの外国人戦闘員も今回の襲撃に加わっていたことで、治安当局者は特に懸念を深めている。

しばらく前から東南アジア諸国の政府は、ISが中東で支配地域を失いつつあるなかで、戦場で鍛えられた自国出身のIS参加者が帰国した場合に生じるであろう事態を憂慮していた。たが今や、東南アジアが外国人ジハーディスト(聖戦主義者)を引き寄せる磁場になりつつあるとの懸念が加わった。

「何も手を打たなければ、彼らはこの地域に拠点を築く」とフィリピンの隣国マレーシアのヒシャムディン・フセイン国防相は語る。

フィリピンの国防や軍の当局者によれば、フィリピン国内でISを支持する4組織は、いずれもマラウィに戦闘員を送り込んでいる。この都市に、東南アジアにおけるISの「ウィラヤート」(管区組織)を確立することが目的だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中