最新記事

中東

イランはトランプが言うほど敵ではない

2017年5月26日(金)18時36分
フーマン・マジド



ロウハニの苦戦を予測した分析には、そもそも多くの問題点があった。第1に、ガリバフの撤退がライシに有利に働くという見方は誤りだった。むしろガリバフが撤退しない方が、ロウハニには不利だった。第1回投票で誰も過半数の票を獲得できなければ、上位2人による翌週の決選投票にもつれる可能性が高かったからだ。

2005年の大統領選もそうだったが、決選投票になるとイランの有権者は現職より挑戦者に投票する傾向がある。候補者が2人に絞られる結果、残りの選挙期間に現職の弱みが際立ってしまい、挑戦者に有利に働くからだ。イラン人は他人の弱みを大目に見るような国民性ではないから尚更、現職に厳しくなる。

ライシがハメネイの最有力後継候補だとか、大統領選への立候補は出世への地ならしだろうという憶測も、ハメネイの意図を読み違えている。知名度の低い聖職者でも、大統領になればイランの最高指導者になる可能性が広がる。それは確かだ。しかし同時に、大統領選で不名誉な惨敗を喫すれば、最高指導者に上り詰めるチャンスが永遠に閉ざされかねない。ハメネイが彼の出馬を許したのはまさに、ライシを蹴落とすためだったかもしれない。裏の裏をかくイラン政治のことだから、ありえない話ではない。

若者から敬遠される強硬派

ハメネイも側近も愚かではない。ハメネイは最高指導者就任以来、ほとんどの大統領選で特定の候補者を支持してきたとされるが、マフムード・アフマディネジャド前大統領が勝利した2005年の大統領選を除き、彼が支持した候補はことごとく敗北した。

ハメネイには、自分の保守的な政治的立場が一般市民から古臭いと敬遠されていることを自覚している。特に大都市圏で、しかも30歳以下の若者の60%がそう受け止めている。ハメネイはイランが欧米の投資に依存したりアメリカに接近することには反対の立場だが、だからといって欧米による経済制裁で経済活動を失速させたアフマディネジャド前政権のときのような事態に後戻りするのは、自分の評価のためにも得策でないと分かっている。

ロウハニ2期目の4年間、イランはどうなるのか。ハメネイは、保守強硬派を使って引き続きロウハニの政策を妨害し続けるだろう。ロウハニや改革派が調子に乗らないよう釘も刺すだろう。反面、ハメネイはイラン経済の改善に結ぶつくイニシアチブを了承し、若い世代にも目を向け、経済状況の改善がもたらす社会的な旨みを人々が享受できるようにするはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISS、コアウィーブによる90億ドル規模の買収計

ワールド

アラスカLNG事業、年内に費用概算完了=米内務長官

ワールド

アングル:高市政権、日銀との「距離感」に変化も 政

ワールド

世界安全保障は戦後最も脆弱、戦わず新秩序に適応をと
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中