最新記事

BOOKS

給食費未納の問題を「払わない=悪」で捉えるな

2017年5月22日(月)13時01分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<子どもの貧困問題を学校給食から考察した『給食費未納』。日本には今も、十分な栄養を確保できない「欠食児童」が存在する>

給食費未納』(鳫 咲子著、光文社新書)という本のタイトルだけを見ると、もしかしたら「未納問題」にまつわるトラブルのたぐいに焦点を当てたものだろうと感じるかもしれない。が、実際にはそういうことではない。

むしろ本書の内容を端的に表現しているのは、「子どもの貧困と食生活格差」というサブタイトルのほうだ。端的にいえば、子どもの貧困問題を「学校給食」という角度から考察しているのである。

最初に取り上げられているのは、数年前に各種メディアを賑わせた問題だ。


二〇十五年には、埼玉県北本市の公立中学で給食費未納が三カ月続いた場合に給食を提供しないと決定、未納家庭に通知したという報道がありました。ネット上には、次のような保護者のモラルを非難する意見が多く見られます。
「給食費不払いの家庭はごく少数だと言われていますが、裕福でベンツに乗って携帯電話の支払いが一月に7万円----支払能力があるのに払わないのが問題なのです」
「滞納者の急増が言われていますが、中には裕福な家庭もいるって話です。生活苦で出せないなら、その様な人だけを対象にした、補助金や貸し出しなどの制度を設ければいいと思います。誰にでも分け隔てない支給は意味が無いと思います」(3~4ページより)

しかし、「払えるのに払わない」ケースが多いというのは、果たして本当なのだろうかと著者は疑問を投げかける。生活保護や就学援助を申請していないからといって、それだけで「支払い能力がある」と断定するのは短絡的だ。

現実には、援助を申請できない事情を抱える保護者もいる。そのため、むしろ滞納を、福祉による支援が必要なシグナルとしてとらえる必要があるというのだ。

たしかに我々は、「払わない=悪」という図式でこの問題をまとめようとしがちだ。その証拠に、まとめサイトなどにも一定の周期で「払わない悪いやつら」のエピソードが登場する。

しかし実際には、ベンツに乗って滞納をする人がいる一方、お金がなくて払えない人も確実に存在する。また経済的な困難を抱えながらも、支援を受けることに心理的抵抗を覚えてしまう場合も少なくないという。

つまり、本当に目を向ける必要があるのはその部分ではないか。

そもそも、給食費だけに限った話ではない。未納家庭は、母子家庭などひとり親家庭が多く、学校の給食費の未納・滞納率以外に、保育園の保育料の未納・滞納などの問題も絡んでくるというのだ。たとえば東大阪市の保育料の滞納調査結果によると、保育料滞納世帯の39パーセントがひとり親世帯だったのだそうだ。


 給食費を払えないお母さんを想像してみましょう。給食の支払いが3か月遅れて、担任の先生から電話がかかってくる。そのときお母さんは先生から叱られないか、子どもの給食費も払えないなんて恥ずかしい、母親失格と感じています。給食費が払えないなど、夫にも実家の父母にも相談できるはずもなく、一人で悩み続けます。しかも消費者金融、クレジットカードなど他にも複数の支払いがあると、なにからどう手を付けてよいのか混乱して、家計の収支を把握できなくなっています。(74~75ページより)

いずれにしても最大の問題は、そのような状況下で直接的な影響を受けるのが子どもたちだということだ。

1950年代前半(昭和20年代後半)、「欠食児童」が国や地方行政の支援の対象となった。高度成長とともにこの言葉は忘れられていったが、「欠食児童」は現在も大きな問題なのだと著者は指摘する。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:トランプ氏の「コメ発言」、政府は参院選控

ビジネス

1.20ドルまでのユーロ高見過ごせる、それ以上は複

ワールド

タイ憲法裁、首相の職務停止 軍批判巡る失職請求審理

ビジネス

中国のAI半導体新興2社、IPOで計17億ドル調達
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中