最新記事

ラグジュアリー

スイスの高級腕時計ブランドにグレーマーケットは必要悪か

2017年4月17日(月)08時29分


無料の宣伝効果

スウォッチ・グループ(UHR.S)やリシュモン(CFR.S)など高級腕時計の最大手は、グレーマーケットに対する戦略を語ることを拒否したが、一部のメーカーはグレーマーケットにも利点はあると見ている。

「時計が1つ売れるたびに、利益の大半を手中に収めるのはメーカーだ」と指摘するのは米ショッピングサイト「SwissLuxury.com」の創業者ダリル・ランドール氏だ。

「それに、ネット検索や画像検索、ソーシャルメディアでのブランドの投稿、ツイート、掲示は、すべて非常に効果的で無料広告だ」。そう語るランドール氏のサイトは、好調な年には年間約1000万ドルの売上を生んでいるという。

メーカーの要請があれば製品販売を中止することもあるとグレーマーケットで販売する別の業者は語る。ブランド側から米販売業者向けに、割引価格で15─25個の製品が定期的に提供されているという。

「ブランド側からは嫌われているだろうが、多かれ少なかれ、私たちの目標は共通している。製品を売り、利益を上げたいのは一緒だ」とこの業者は付け加えた。

2008─09年の金融危機後、中国からの高級腕時計に対する需要が膨らんだ。これにより製品の生産量が、小売価格とともに上昇したものの、この2年間で需要は急減。度重なる過激派の攻撃によって、こうした腕時計販売の盛んな欧州を訪れる観光客が減少したことに加え、中国当局が高級腕時計を贈答品にする公務員を取り締まったためだ。

需要減退であっても、生産を抑えることは困難だ。理由の一端として、腕時計は、段階を追って組み上げられるため、製造に時間がかかり、製造計画が2年も前に確定している場合が多いことが挙げられる。

高級品をぜひとも必要としている人はいなくても、各ブランドは、顧客が贅沢な店舗で精巧に仕上げられた腕時計を目にし、実際に触れてみることでその「物語」に惹きつけられたなら、それを手に入れたくなり、価格など二の次になってしまうことを経験上知っている。

流通するブランドにばらつき

販売好調期には、メーカー側は売上げの20%を利益として確保し、販売店は最大45%という魅力的なマージンを得ることができた。

だが、ビジネスが細ってきても、メーカーは公式販売店が大幅な値下げを行うことを許さなかった。ブランドイメージが傷つくことを恐れたためだ。こうした方針が、資金繰りに困った販売店の背中を押して、グレーマーケットに商品を流すようになった可能性があるという。

スイスの腕時計輸出は昨年10%低下。さらに今年に入って最初の2カ月で8%減少している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中