最新記事

米予算

「成立するはずのない」予算案を出してトランプがもてあそぶ政府閉鎖の危機

2017年3月31日(金)06時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

思わぬところで政府閉鎖の危機

 それどころかトランプ政権は、さらに「不毛な戦い」に踏み込もうとしている。トランプ政権は、2018年度(2017年10月~2018年9月)の予算案を発表すると同時に、今年9月までの2017年度の補正予算案を提案している。2018年度予算案と同様に、国防費の増額とそれ以外の分野での歳出削減が提示されただけでなく、これも議論を呼んでいるメキシコ国境への壁の建築費用が盛り込まれた。どう考えても、民主党議員の賛同は得られそうにない内容だ。

 問題なのは、補正予算に関する議会審議の紛糾が、政府機関の閉鎖につながりかねない点である。実は米国では、昨年10月から始まった2017年度の予算が成立しておらず、政府機関は暫定予算の下で運営されている。暫定予算は4月28日で期限が切れるため、それまでに議会が本予算を成立させられなければ、政府機関は閉鎖に追い込まれてしまう。

トランプ政権が補正予算の成立にこだわれば、議会の審議が紛糾し、そのあおりで2017年度予算の成立が期限に間に合わないリスクが浮上する。そもそも2017年度予算の大枠については、前オバマ政権下の議会において、民主党と共和党の間で合意が出来ている。それにもかかわらずトランプ政権は、わざわざ争点を作り出し、政府閉鎖の危険を冒そうとしている。

不毛な戦いに時間が費やされる一方で、肝心の減税やインフラ投資に関する議論は、遅々として進まない。トランプ政権の迷走は深刻だ。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジルの11月外国直接投資は予想上回る、中銀の通

ワールド

マレーシア外相、カンボジアとタイに停戦再開促す A

ワールド

米CBS、エルサルバドル刑務所の調査報道放映を直前

ワールド

新潟県議会が柏崎刈羽原発再稼働を容認、「地元同意」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 8
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 9
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中