最新記事

米予算

「成立するはずのない」予算案を出してトランプがもてあそぶ政府閉鎖の危機

2017年3月31日(金)06時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

トランプ政権が提案した予算案は、これまでも民主党が断固として拒否してきた内容だ。トランプ政権の予算案では、例外的に国防費だけが増額となっている。健全財政を党是とする共和党の政権だけあって、国防費を増額する一方で、それ以外の分野で歳出削減を行い、予算全体では財政赤字の拡大を防ぐ構成である。

政府の役割を重視する民主党が、環境保護庁の予算などの大幅減に賛成するはずがない。かねてから民主党は、国防費を増やす場合には、それ以外の予算も同じだけ増やすべきだと主張してきた。トランプ政権の予算案が、議会に「届いた時点で死亡が確定(Dead on Arrival)」と揶揄される所以である。

ビッグ・バードを敵に

大胆な歳出削減案は、トランプ政権にとって頭痛の種になりかねない。削減対象となった施策には、それぞれの利害関係者が存在する。一件ごとの予算規模は小さいにしても、全額カットなどとなってしまえば、生活が脅かされる人たちもいる。さまざまな論点で、強烈な反対運動が発生しても不思議ではない。

具体的な施策の存在が問われるだけに、歳出削減への反対論は有権者にも分かりやすい。例えば、やはり全額カットが提案された公共放送への補助金。日本でも人気のある「セサミ・ストリート」の制作にも使われる補助金だけに、「国民は(国防費で買える)戦闘機より、(セサミ・ストリートの)ビッグ・バードが好き」といった批判が起きている。

イエレンFRB議長もかみついた。トランプ政権の予算案では、低所得地域への融資を補助する財務省の施策が、予算を全額カットされた。3月28日の講演でイエレン議長は、トランプ政権が無くそうとしている補助制度の成果を称え、制度継続の重要性を示唆している。

共和党の党是である健全財政の観点からも、トランプ政権の予算案を擁護するのは難しい。歳出削減の対象になったのは、米国財政全体から見ればほんの僅かな一部分だからである。

今回の予算案では、年金や医療保険といった「義務的経費」と呼ばれる分野の提案は行われなかった。また、国防費は増額となっており、これも削減の対象外である。結局、トランプ政権が提案した歳出削減は、政府歳出全体の15%程度しか占めない分野に集中した。たったこれだけの部分では、いくら歳出を大幅に削減したとしても、財政健全化に大きく貢献できるわけがない。

議会で成立する見込みがなく、財政健全化にも貢献しないのに、反対論だけは各所で巻き起こる。それがトランプ政権の予算案の実像である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中