最新記事

日本外交

一歩も引かないプーチンに、にじり寄る安倍の思惑

2017年3月30日(木)11時30分
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト)

昨年12月の日ロ首脳会談でも北方領土問題に進展はなかった Toru Hanai-REUTERS

<山口での「温泉サミット」でも譲歩しなかったロシアのプーチン大統領に、しぶとく接する安倍首相の3つの目的とは?>

先週20日、東京で日本とロシアの外務・防衛閣僚会議(「2プラス2」)が行われた。13年の開催以来、2回目だ。

こうした会議は通常、緊密な戦略的関係がある同盟国間で行われるものだ。なのに安倍政権はロシアのプーチン大統領が訪日した昨年12月、この会議の開催に同意した。「2プラス2」はロシアのクリミア併合、ウクライナ東部への介入によって過去3年、中断されていた。

首をかしげるのは、ロシア側からの見返りがないままに日本が会議再開に同意したことだろう。プーチンは、安倍首相が地元の山口県で準備した「温泉サミット」に3時間近く遅刻した。この幕開けが象徴したように、プーチンが訪日しても北方領土問題は進展しなかった。

いや、進展どころか後退と言えるかもしれない。ロシアは北方四島に軍事施設を建設しつつあり、プーチンがよく口にしていた「引き分け」の状況でさえなくなっている。

安倍の目的は何か。なぜロシアにそこまで譲歩するのか。

安倍は12年、2度目の首相就任以来、ロシアとの関係改善に努力してきた。プーチンとはこれまで首脳会談や国際会議などで、16回も顔を合わせている。ロシアに接近すれば得をするという計算があるのは確かだ。

【参考記事】トランプ豹変でプーチンは鬱に、米ロを結ぶ「スネ夫」日本の存在感

中国への牽制も計算に

ロシアとの関係改善を狙う目的は3つある。それぞれ別個のものだが、相互関係がある。

第1はもちろん、最も重要な北方領土問題の解決だ。先週の「2プラス2」では、両国が観光開発や資源開発の合弁事業を促進しながら、北方領土について議論を進めるという合意に達した。

ここからみえるのは、日本が大きな取引で一気に解決を図る「グランドバーゲン」ではなく、解決に向けて少しずつ前進するほうに焦点を当てていることだ。

ただし、交渉を長引かせて相手から譲歩を引き出そうとするプーチンには都合がいい。しかもプーチンは日ロ関係を利用して、ウクライナ紛争以来ロシアに批判的になった欧米諸国の結束にくさびを打ち込める。

この点は安倍にとって特に問題だ。日本はG7のメンバーであり、アメリカの同盟国でもある。綱渡りの状態でロシアと交渉する一方、ロシアに経済制裁を科すG7と協調しなくてはならない。

日本政府内には、ロシアのクリミア併合は中国にとって先例になるという意見も強い。領有権をめぐって紛糾する東シナ海や南シナ海の現状を、軍事力によって変えたいと野心を抱く中国にとってだ。

もっとも安倍は、プーチンの戦略をよく理解している。その点が残り2つの目的につながっていく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中