最新記事

アメリカ政治

トランプは張り子の虎、オバマケア廃止撤回までの最悪の一週間

2017年3月27日(月)17時30分
ニコラス・ロフレド

オバマケア廃止法案の可決に失敗した後、ホワイトハウスで記者会見するトランプ Carlos Barria-REUTERS

<トランプは今や、得票数でクリントンに及ばなかった大統領どころではなく、ロシアに当選させてもらった大統領、目玉公約のオバマケア廃止法案さえ通せない大統領、つまり「まぐれの大統領」だ>

ドナルド・トランプ米大統領にとって大きな敗北だ。3月24日、オバマケア(医療保険制度改革)の廃止代替案を議会採決直前に撤回せざるをえなくなったのだ。共和党の「フリーダム・コーカス(下院議員連盟)」と呼ばれる保守強硬派の支持が得られず、賛成票が足りなかった。これで、選挙戦中あれほど強く廃止代替を公約していたオバマケアは予見可能な将来、ずっと続くことになった。上下院を共和党が支配する状況下でさえ、最重要法案を採決に持ち込めない──トランプ米大統領と共和党の驚くべく無能さがさらけだされた瞬間だった。

【参考記事】オバマケア廃止・代替案のあからさまな低所得層差別

それだけではない。先週の数日間に、FBI(米連邦捜査局)は米大統領選へのロシアの関与とトランプ陣営の関係について捜査中であることを認め、トランプが指名した最高裁判事候補の議会承認は躓き、極めて良好だったイスラエルとの関係も壁にぶつかった。「最強の交渉役」を自任してきたトランプの面目は丸つぶれだ。フェイク(偽)ニュースや大ぼらでこれまでも散々世間を振り回してきたトランプだが、フロリダでの休暇を取り止めて記者たちへの弁明に終始した今回は、完全にコントロールを失って見えた。 

【参考記事】トランプとロシア連携?──FBI長官が「捜査中」と認めた公聴会の闇
【参考記事】「トランプはロシアに弱みを握られている」は誤報なのか

「オバマが盗聴」はでっち上げ

トランプの大統領就任以来続いていた中傷や根拠のない非難、フェイクニュースの嵐を静まらせたのは、先週月曜、FBIのジェームズ・コミー長官が米下院情報特別委員会の公聴会に出席し、米大統領選をトランプ有利にしようと工作したロシアのスパイとトランプ陣営スタッフの関係について捜査中だと証言したときだ。もし本当なら、トランプはロシアに当選させてもらった大統領ということになりかねない。またコミーは、バラク・オバマ前大統領がトランプのことを盗聴していたというトランプの根拠なき主張についても、そんな証拠はどこにもないとにべもなく否定した。

それでも、最高裁判事に指名したニール・ゴーサッチが上院に無事承認されていれば、少しは政治的な暗雲も晴れただろう。だが民主党が承認阻止を宣言し、トランプと上院共和党は難しい立場に追い込まれている。民主党が「フィリバスター(議事妨害)」に打って出れば、共和党は8人の民主党議員を味方につけなければゴーサッチを承認できなくなる。

外交面でも傷を負った。ジャンクロード・ユンケル欧州委員長はEUのローマ条約締結60周年の演説で、ナショナリスト的な運動を煽る「いまいましい」トランプへの警戒を呼びかけた。極右など一部を除けば、ヨーロッパは、トランプのポピュリスト的レトリックにうんざりしているのだ。

【参考記事】中東和平交渉は後退するのか──トランプ発言が意味するもの

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中