最新記事

北朝鮮

猛毒VXは「外交行嚢」で持ちまれた?──特権で他国の人間は開封できず

2017年2月28日(火)18時56分
大塚智彦(PanAsiaNews)

調合前の状態でVX持ち込みか

マレーシア紙は「500ml以下の液体をたとえばシャンプーボトルに入れて外交行嚢に忍ばせば、全く検査もすり抜け疑念も抱かれることもなく持ち込むことは可能である」とのマレーシア原子力エネルギー庁関係者の談話を伝えている。

VXガスは極めて致死性の高い猛毒だが、調合する前の状態にある別々の液体を分離して持ち込み、その後に調合することで、運搬中のリスクは回避できる、とも指摘している。

マレーシアでは外交官旅券を所持した外交官に対しては税関での検査は原則フリーパスで、大使館関係者が到着航空機の側まで出迎えて同行するケースが多いとしている。空港の税関職員、入管当局員も「無用な外交摩擦を回避するため、ほとんどフリーパスでの入国を黙認しているのが実情」と同紙は情報筋の話として伝えている。

カギを握る北朝鮮大使館関係者

マレーシア捜査当局は暗殺事件への関与が濃厚としてすでにインドネシアのジャカルタなどを経由して北朝鮮に帰国している4人の北朝鮮国籍男性の身柄引き渡しを求める一方で、4人を国際刑事警察機構(ICPO)に対し国際手配する手続きを依頼している。

このほかにも在マレーシア北朝鮮大使館の2等書記官ら複数の重要参考人に関する捜査も続いている。こうした関係者がVXガスのマレーシアへの外交行嚢での持ち込み、あるいは調合などで重要な役割を担っていた可能性は高く、今後の捜査のカギとなりそうだ。

そして北朝鮮大使館あるいは北朝鮮外交官による「外交行嚢」を利用した暗殺事件への関与が事実とすれば、国際社会の共通ルールを裏切る行為が明白となる。

このため今後、各国関係機関が国際空港などで北朝鮮外交当局による「外交行嚢」に対し、特別にX線検査などの強化、北朝鮮大使館員を呼んでその場で開封させて中身を確認するような事態が起きる可能性も指摘されている。国際社会の北朝鮮に対する視線、対応は日増しに厳しくなっているのが現実だ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 6
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 7
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 8
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中