最新記事

韓国

左派大統領誕生を望む韓国、日米との安保協力にも暗雲が

2017年2月16日(木)10時40分
J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト)

潘基文の不出馬を受けて次期大統領選トップ独走中の文在寅(写真は2012年の大統領選) Kim Hong-Ji-REUTERS

<韓国左派勢力の台頭で日米との協力関係に隙間風。関係がこじれれば北朝鮮や中国の思う壺だ>

韓国の次期大統領選に出馬の意向を示していた潘基文(バン・キムン)前国連事務総長が今月初め、出馬を断念した。

保守系の最有力候補と目されていた潘だが、対立候補との批判合戦に敗れ、支持率を伸ばすことができなかった。潘の出馬断念で単独トップに躍り出たのは、最大野党で中道左派の「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)前代表だ。大統領選の行方は、昨年12月の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する弾劾決議を受けて憲法裁判所が来月にも下すとみられる弾劾可否の判断に懸かっている。

だがそれ以上に重要なのが左派勢力の伸長だ。長年にわたる保守・主流派政党の汚職疑惑に加え、朴の崔順実(チェ・スンシル)ゲート(友人の崔順実への機密漏洩疑惑に端を発した一連のスキャンダル)が火に油を注ぐ形になっている。

抗議デモの多くは自然発生的なものだが、崔ゲートを機に異なる目標を掲げる左派の多様な活動団体が現れた。朴政権の対北朝鮮強硬策を激しく批判する親北・反核団体「祖国統一汎民族連合」や、朴が合意した米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)の配備に反対している「THAAD韓国配置阻止全国運動」などだ。

【参考記事】日米同盟をトランプから守るため、マティス国防長官はやって来た

左派系の政治家も政局の混乱に乗じて、朴のスキャンダルを盾に保守派の行動原理(財閥に対する変わらない支援など)を非難してきた。リベラル派は対北朝鮮政策でも抑止から融和に転じている。左派復活の何よりの見本が文の人気再燃だ。この調子でいけば盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領以来、約10年ぶりのリベラル派大統領が誕生してもおかしくない。

12年の大統領選で朴に敗れたことを思えば、この返り咲きは意外だが、それ以上に気掛かりなのは左派の著しい勢力伸長だ。それを象徴するようにポピュリストの李在明(イ・ジェミョン)城南市長の支持率が上昇、潘が不出馬を表明する前の調査では3位だった。

ポピュリスト的な過激発言から「韓国のトランプ」と呼ばれる李は、与党・自由韓国党(前セヌリ党)の朴政権下での政財界の癒着を激しく批判。米韓同盟の必要性を公然と疑問視し、韓国主導で北朝鮮への積極関与策を再開することを提案──金大中(キム・デジュン)政権時代の太陽政策を再び、ということらしい。

今後数カ月、成り行きを見守るしかないが、早くも多くの危険な前兆や暗示が見える。黄教安(ファン・ギョアン)大統領代行兼首相が率いる暫定政権はTHAAD配備推進を改めて表明したが、撤回の可能性は依然としてちらつく。文は朴の腐敗イメージと決別するため、次期政権は配備を考え直すべきだと示唆。李もTHAADは不要で、逆に北朝鮮や中国との関係を脅かしかねないと主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、第2四半期は17%減益も予想上回る 

ワールド

FRB独立は重要、大統領が議長解任を試みることはな

ビジネス

米シティ、第2四半期は25%増益 市場の変動とM&

ビジネス

米CPI、6月は前年比+2.7%・前月比+0.3%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 8
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中