最新記事

米中関係

南シナ海、米中戦争を起こさず中国を封じ込める法

2017年2月14日(火)17時09分
アレクサンダー・ビュビン(ダニエル・イノウエ アジア太平洋安全保障研究センター教授)

その1つが、南シナ海における中国の不適切な行動を支援・促進したり、それに参加したりする個人や企業に的を絞った制裁だ。2016年12月にフロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員が提出した対中制裁法案はまさにその一例だ。法案で示された具体的な制裁内容は、資産の凍結や渡航禁止など。制裁対象となるのは、紛争領域における「建設や開発計画に携わった」個人や企業、ならびに南シナ海や東シナ海における「平和や安全、安定を脅かす」個人や組織だ。

法案はさらに、同海域の中国の支配権をアメリカが認めていると言うかのような行動を禁じ、同海域についての中国の支配権を認める国への対外援助も制限するとしている。こうした基本的制裁をさらに拡大して、違反者たちとビジネス取引を行う企業などに対して二次的な制裁を科す可能性もある。ルビオが提出した法案が採択されるかどうかはわからないが、的を絞った制裁が、中国の動きに間接的に変化をもたらす道具として重要なことに変わりはない。

軍艦を使わない実力行使

アメリカとその同盟国には、さらに直接的な選択肢もある。中国が得意とする「キャベツ戦術」を拝借し、中国が南シナ海の島々へアクセスできないようにするのだ。中国のキャベツ戦術とは、紛争地を軍と民兵組織で幾重にも取り囲む方法だ。ならば対抗勢力側も対抗して、キャベツの葉を三重にすればいい。つまり、島々のすぐ周りを一般の民間船で囲み、その外側に沿岸警備艇などを配し、軍艦が遠く離れた海上からその様子を監視・保護するのだ。

対中連合はこれまでのところ、中国が仕向けた武装した海上民兵にかなわなかった。だが民間ボランティアに防衛の最前線に立ってもらうことはできる。わざわざ中国の航空機を撃墜し港を爆破しなくても、民間の船舶や巡視艇から無人航空機や無人潜水機のドローンを航行させれば、人工島にある中国の滑走路や港湾施設へのアクセスを封鎖できる。

一般論に反し、こうした行為は国際法上可能だ。もし中国が公海上の自由の権利を認めなければ、こちらにも中国の自由を制限する権利が生じる。現に昨年7月には、南シナ海の領有権問題をめぐり、国際法上の紛争解決に大きな影響力を持つ常設仲裁裁判所で中国の全面敗訴が確定した。中国が主張する領有権や、人工造成したミスチーフ礁の占拠、スカボロー礁へフィリピンの漁民を近づけない行為、南沙(スプラトリー)諸島の岩礁の埋め立て、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)における人工島の建設などを「国際法違反」とする判決が言い渡された。

【参考記事】仲裁裁判所の判断が中国を追い詰める

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期決算は市場予想と一致 MSとの

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星

ビジネス

大和証G、1―3月期経常利益は84%増 「4月も順

ビジネス

ソフトバンク、9月末の株主対象に株式10分割 株主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中