最新記事

ドラマ

トランプ時代に『24』が帰ってきた

2017年2月28日(火)10時50分
ウィラ・パスキン

ヒーローは白人から黒人に交替。主人公カーターを演じるホーキンス (c) 2017 Fox and its related entities. All rights reserved.

<キャストを一新して放送が始まった新シリーズは、テロと拷問と移民と人権について何を語るのか>

FOXで放送が始まった新ドラマ『24:レガシー』(日本ではFOXチャンネルで毎週火曜よる9時放送中)にとっては、ヒラリー・クリントンがアメリカ大統領になっていたほうが好都合だっただろう。

勇敢にテロリストからアメリカを守る捜査官ジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)の活躍を描いた緊迫のドラマ『24−TWENTY FOUR−』とその続編が放送を終了して3年近く。コーリー・ ホーキンス演じる陸軍特殊部隊員エリック・カーターを主人公に、大ヒットドラマが帰ってきた。

もしクリントンが大統領になっていれば、話題の娯楽作になっていたはず。しかし、ドナルド・トランプ大統領が誕生し、状況が変わってしまった。『レガシー』は、制作者サイドが意図した以上に物議を醸す作品になりそうだ。

01~10年に放送された『24』は、当時のブッシュ政権がテロ容疑者に行っていたような過酷な拷問を「宣伝」する内容とも言えた。厳しい時間的制約の中で問題を解決しなくてはならないジャックとテロ対策ユニット(CTU)のメンバーは、当たり前のように肉体的・精神的な拷問を行い、いつも質の高い情報を入手していた。

特に初期の『24』は、01年の9・11テロ直後のアメリカ人の不安をあおり、同時にその不安をなだめることで多くの視聴者を獲得していた。国民の安全を守るために手段を選ばない強いヒーローは、国民を安心させてくれた。『24』は拷問を正当化するだけでなく、アメリカ人にそれを支持させたのだ。

【参考記事】アカデミー賞を取り損ねた名優、名子役、名監督......

トランプ政権が落とす影

09年からのオバマ政権時代に、ブッシュ政権流の非倫理的で効果の乏しい残忍な拷問手法の多くは禁止されたり、使用されなくなったりした。拷問の是非をめぐる議論も沈静化していた。

しかし今年1月、拷問には「絶対に」効果があると言い切る男がホワイトハウスの主になった。トランプのテレビ番組の好みを考えると、そのような確信を抱くに至ったのは、『24』で効果を目の当たりにしたからだったのかもしれない。

トランプ政権がイスラム圏7カ国の国民の入国一時停止を打ち出して国内外で大論争に発展したことは、始まったばかりの新ドラマにも大きな影を落とす。テロ組織がアメリカ国内でテロ分子を動かすというドラマのストーリーは、手に汗握る設定というより、国民の恐怖心をあおる内容と批判されるだろう。

『レガシー』は拷問のシーンで始まる。カーター率いる陸軍特殊部隊のチームは半年前、中東のイエメンでテロ組織の親玉イブラヒム・ビンハリドの隠れ家を襲って殺害した(アルカイダのウサマ・ビンラディンを仕留めた海軍特殊部隊SEALsのイメージだ)。

このときの隊員たちがアメリカでテロ組織に次々と襲われ、残忍な拷問を受けるのだ。テロリストの狙いは、奪われた金庫の奪還だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

メルセデス、中国パートナーとの提携に投資継続 「戦

ビジネス

日経平均は大幅反落800円超安、前日の上昇をほぼ帳

ビジネス

焦点:国内生保、24年度の円債は「純投資」目線に 

ビジネス

ソフトバンク、9月30日時点の株主に1対10の株式
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中