最新記事

動物

南アフリカの取引合法化はサイを救うか

2016年12月17日(土)11時00分
レイチェル・ヌワー(科学ジャーナリスト)

 密猟で殺された南アフリカのサイは、昨年1年間で1157頭。09年以降では合計6000頭を上回っている。密猟からサイを守るための負担は、ほぼヒュームのような飼育家の肩にのし掛かっているのが現状だ。

 ヒュームが最初の1頭を購入したのは、93年。「サイの性格のよさを知り、同時に絶滅に瀕していることも知った」と、ヒュームは言う。「私が貢献する最善の方法は、繁殖させることだと思った」

 ヒュームは、毎月約17万5000ドル以上を密猟対策に費やしている。そのかいあってこの9カ月は1頭もサイを失っていないが、これだけの支出を続けるのは難しい。それに危険もある。サイ飼育家とそのスタッフは、保管している角を狙う者たちに襲撃されることも。南アフリカでは今も330人がサイを飼育しているが、この2年間で廃業した人は70人に上る。

 こうした状況下で、サイ飼育家の85%は、角の取引を合法化することこそ、サイの絶滅を防ぐ唯一の方法だと考えている。取引を解禁して需要を満たせば、ヤミ市場を壊滅させられるし、密猟対策と保護に必要な資金も得られるというのだ。

 南アフリカでサイの角の国内取引が禁止されたのは、09年。保護を目的とした措置だったが、それが逆にサイを危険にさらしていると主張する人たちもいる。

「需要が増えているときに、それを満たせるだけの供給を行わなければ、代わりに供給しようとする人が出てくるのは当然だ」と、オックスフォード大学の博士候補生マイケル・トサスロルフス(保全経済学)は言う。

【参考記事】<写真特集>アフリカ野生動物の密猟と食肉売買の現実

象牙「解禁」の苦い教訓

 この国内取引禁止措置は、近く解除されるかもしれない。多くのサイ飼育家は、この措置が南アフリカ憲法に違反していると主張。ヒュームともう1人のサイ飼育家は政府を相手取って裁判を起こし、既に第2審まで訴えが認められている。政府が上訴しているが、解禁の最終判断が示されても不思議はない。

 しかし、国内取引を解禁することには強硬な反対論もある。合法化すれば、市場を制御し切れなくなるというのだ。

 特に懸念されている点の1つは、市場が拡大することだ。取引を合法化すると、サイの角が社会的に許容される商品だというメッセージを発しかねない。その結果、これまで法律を尊重して思いとどまっていた人たちが、堂々とサイの角を買うようになる恐れがある。

 自然保護団体の天然資源保護協議会(NRDC)が14年に中国の消費者の意識を調べた結果も、その懸念を裏付けている。「中国におけるサイの角に対する潜在的な需要は、サイ牧場などによる供給で満たせるよりずっと多い」と、調査責任者のアレキサンドラ・ケノーは言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 7
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 10
    第三次大戦はもう始まっている...「死の4人組」と「…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中