最新記事

サイバー戦争

オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃

2016年12月16日(金)19時00分
マイカー・ゼンコー

 しかし過去に重大な結果を招いたとはいえ、1つのNIEだけを見て情報分析全体の力量を評価するなら、今後どんな情報機関も信じられなくなるだろう。2002年10月以降に公表されたNIEは数百件に上る。そのうち我々が目にしたことがあるのは、07年12月に公表された「イランの核兵器開発」に関する機密報告書ぐらいだろう。02年版のNIEが議会にイラク戦争を承認させるべく拙速に作成されたのに対して、07年版はイランの核施設を軍事制圧もしくは攻撃するというブッシュ政権の計画を中止に追い込んだ。「2003年秋の時点でイランは核兵器開発計画を停止したと、高い確信を持って判断する」と公表し、後に断定した。

 昨今の米大統領選へのロシアの介入を主張する情報機関の分析を信じるかどうかは、NIEの02年度版と07年度版のどちらを判断基準にするかで決まりそうだ。

 2つ目の反論は、米政府はロシア政府が実際に大統領選に関与したことを示す「証拠を把握していない」という主張だ。だが情報機関にしてみれば、ロシアの関与を認める分析結果の根拠となった証拠は示さないのが当たり前で、今後も公表しないはずだ。そんなことをしてしまえば、情報源や証拠をつかむために用いた情報収集の手法が見破られてしまう。ある米政府高官が米紙ロサンゼルス・タイムズに語ったように、そうした特定の情報を明らかにすれば、今後の情報収集能力に支障をきたす可能性がある。

オバマには機密解除の権限がある

 すでに公開された文書であれ、議会での公聴会や一般的なインタビューであれ、情報機関がその手の証拠を公の場で開示するなど、ほぼあり得ない。興味がある人はCIAのウェブサイトにある電子閲覧室を使えば、機密扱いから全てもしくは一部解除された1700以上のNIEの文書に目を通すことが出来る。公表日やキーワード、地域、テーマなどから簡単に検索できる。ただし、CIAらしい語調の分析結果は読めても、固有名称や明らかな指揮命令系統、或いは一連の証言などの「証拠」になる部分をそのまま閲覧できるのは稀で、ほとんどの文書で重大な証拠につながる部分は白枠で抜かれている。

 バラク・オバマ大統領には、自らの意向でどんな文書でも機密解除する権限がある。先週情報機関に指示した調査結果が出揃えば、オバマがそれらの取扱いについてとりわけ積極的かつオープンな姿勢で臨むことを期待する。

 オバマは昨日、米大統領選へのサイバー攻撃による介入について、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が指示したと示唆。その上で、ロシアに対する報復を誓った。「外国政府がアメリカの選挙の公平性に手を加えようとするなら、行動する必要がある」言った。だがオバマに残された任期は短い。1月20日以降は、なぜか情報機関を毛嫌いしているらしいトランプが、真実を追い求める者にとっての相手だ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中