最新記事

難民問題

イスラム嫌いのスロバキアとEUの深い亀裂

2016年12月5日(月)18時48分
エミリー・タムキン

今年9月、スロバキアのフィツォ首相(左)とドイツのメルケル首相 Yves Herman-REUTERS

<オーストリアに極右大統領が生まれずとも、EUは既にリベラルな先進国と排外主義の中進国に分断している>

 週末の大統領選で、オーストリアの極右候補は大統領になり損ねたが、EUの辺縁諸国は極右ならずとも排外主義に傾いている。旧東欧のスロバキアはこの1年、イスラム教徒がこの国でいかにお呼びでないかを繰り返し示してきた。

 3月の議会選挙では、極右のポピュリスト政党が躍進した。ネオナチ政党も初めて議席を獲得。中道左派政権を率いるロベルト・フィツォ首相でさえ、イスラム教徒の脅威を訴えてきた。5月のインタビューではこう言った。「我が国にイスラム教徒の居場所はいない。問題は移民の流入ではなく、彼らがスロバキアの顔を変えてしまうことだ」

【参考記事】欧州難民危機で、スロバキアがイスラム難民の受け入れを拒否

 7月、スロバキアは輪番制で欧州評議会の議長国になる。欧州諸国が難民危機に直面し、EU加盟国に難民割当制を受け入れてもらおうとしているタイミングで、これ以上は1人も難民を入れたくないと言っているスロバキアが議長国になったのだ。リベラルな欧州諸国にとっては迷惑なことだった。

【参考記事】難民を締め出したハンガリーに「EUから出て行け」

 事実先月になると、スロバキアはEUに対し、各国がお金を出し合ってEUとそれ以外の地域の間の国境管理を強化するか、難民を強制送還するという計画を提出した。難民を受け入れる代わりに、入れないか追い出すことに力を注ごうというのだ。

宗教として認めない

 そして今、スロバキア政府は、国としてイスラム教を宗教として認めることを事実上妨げる法律を成立させた。新しい法律では、宗教が国の補助金を受けるためには、信者が5万人以上いなければならい。

【参考記事】ポーランド誌表紙にウェブ騒然、「欧州をレイプするイスラム」

 以前からイスラム教徒の入国を抑制してきたスロバキアには、イスラム教徒は現在約2000人しかいない。「将来、この国にモスクが1つも建たないようにするため、あらゆる手を打つ」というスロバキア国民党が提出した法案だ。

 スロバキア(と、中央ヨーロッパのヴィシェグラード4カ国をともに構成するチェコ、ポーランド、ハンガリー)の内政に大きな変化は期待できないだろう。だがヨーロッパは変わるかもしれない。来年1月には、マルタが欧州評議会の議長国になるからだ。マルタは、ヨーロッパ中に難民や移民を定住させる「強制再定住計画」を支持している。もちろん、その時にはスロバキアも対象になる。この溝を、EUはどう埋めるのだろうか

From Foreign Policy Magazine

 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米フェデックス、6─8月期利益が予想上回る コスト

ワールド

米下院議員、中国の希土類規制解除なければ航空機発着

ワールド

高市氏、午後2時半から自民総裁選政策で記者会見

ワールド

プーチン氏、コザク大統領府副長官を解任 長年の側近
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中