最新記事

映画

『ガール・オン・ザ・トレイン』は原作を超えて救いを感じさせるミステリー

2016年11月19日(土)09時10分
ケイティ・ウォルドマン

変幻自在なトーンの勝利

 欠点がないわけではない。セクシーなメガンの描き方は紋切り型だ(メガンは少なくとも4カ所でセックスをし、「電車にはねられると衝撃で服が脱げるそうよ」などというせりふを言わされる)。荒唐無稽などんでん返しもある。

 だが、映像は見事。撮影監督のシャルロッテ・ブルース・クリステンセンは特殊なレンズを使い、機材を揺らすことで、酔ったような映像を実現した。

 実験精神旺盛でジャンルに縛られないテイラー監督は、陰鬱なミステリーを時折ホラー映画に変身させる。ある場面では不協和音をバックに、レイチェルがすさまじい形相でメガンに飛び掛かる。赤ん坊を抱いたレイチェルの影が霧に浮かび上がるシーンもある。

【参考記事】台湾生まれの日本人「湾生」を知っていますか

『ガール・オン・ザ・トレイン』には、物事がさらに悪い方向に転ぶような不吉な感覚が付きまとう。その予兆は原作では不快でしかないが、映画では逆の効果を持った。

 私たちは自分で思うよりも善人なのでは? 直感は信じるに値するのでは? そんなことを問い掛けているように思える。

 女優陣の輝くような魅力のせいか、あるいは変幻自在な映画のトーンに深い闇は似合わないのか。すさみ、壊れた人々がただ落ちていく原作と違い、映画はかすかな光を見せて終わる。

[映画情報]
THE GIRL ON THE TRAIN
『ガール・オン・ザ・トレイン』

監督/テイト・テイラー
主演/エミリー・ブラント、レベッカ・ファーガソン
日本公開は11月18日

© 2016, Slate

[2016年11月22日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ワールド

オラクル会長、404億ドルの保証提供 パラマウント

ワールド

カナダ新駐米大使に元ブラックロック幹部、トランプ関

ワールド

米大統領、史上最大「トランプ級」新型戦艦建造を発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中