最新記事

北朝鮮

金正恩vs.ドゥテルテへ!? フィリピンに流入する北の違法薬物

2016年10月28日(金)15時47分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

KCNA/via Reuters(LEFT); Lean Daval Jr.-REUTERS(RIGHT)

<フィリピン紙によると、同国の刑務所内で出回っている覚せい剤の相当部分が北朝鮮製だという。であれば、暴力的な麻薬対策を推し進めるドゥテルテ大統領が、北朝鮮の金正恩政権に対して何らかのアクションを起こす可能性があるのか>

 フィリピン下院で行われた聴聞会で、刑務所内で出回っている覚せい剤の相当部分が北朝鮮製との証言が飛び出したとフィリピン・インクワイアラー紙が報じている。

 マニラ郊外のニュービリビッド刑務所で覚せい剤の密売を行っていたジェイビー・クリスチャン氏が、フィリピン下院で開かれた聴聞会で証言台に立ったのは今月10日のこと。

北では「覚せい剤ダイエット」も

 この席でクリスチャン氏は、覚せい剤(フィリピンでもシャブと呼ばれる)は中国と北朝鮮から来たものだと証言した。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は北朝鮮製の割合が6~7割を占めると報じている。

 同氏によると、刑務所内の中国系の覚せい剤密売組織は、外部の中国系の組織と手を組み、携帯電話を使って外部との連絡や送金を自由に行い、大々的な密売を行っていた。また、覚せい剤を内部に持ち込むために、矯正局の職員に毎週10万ペソ(約21万円)のワイロを渡し、警報装置の電源を切らせていた。

 刑務所内には薬物やギャンブルで得られた5000万から1億ペソ(約1億600万円~2億1300万円)が常に蓄えられている状態だったが、同氏はそのうちの200万ペソ(約427万円)を現職上院議員のレイラ・デ・リマ氏に手渡したと証言し、大スキャンダルへと発展している。

 周知の通り、フィリピンのドゥテルテ大統領は高い支持率を得て、暴力的な麻薬対策を進めている。

 その一方、北朝鮮においても覚せい剤の密造・密売は重罪だ。海外のドラマや映画をこっそり視聴した「罪」と並んで公開処刑にされる数が多いのも、薬物事犯である。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態...元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

 ドゥテルテ氏も「麻薬中毒者など私も喜んで殺す」と宣言、就任100日の間に容疑者段階で警官に殺害された者は1300人以上、自警団による処刑や麻薬組織内の抗争によるとみられる死者は2000人を超えた。

 もっとも、北朝鮮はかつて、外貨稼ぎのための国策として覚せい剤を製造し、日本や中国に密輸してきた過去がある。この点で、正恩氏とドゥテルテ氏の立場は異なる。富裕層の間で「覚せい剤ダイエット」が流行るほどの北朝鮮国内の薬物汚染は、まさに「自業自得」と言えるものなのだ。

(参考記事:北朝鮮女性の間で「覚せい剤ダイエット」が流行中

 このような経緯を踏まえれば、ドゥテルテ氏が国内の薬物汚染を本気で取り締まる気なら、金正恩氏に対して何らかのアクションを起こしてもおかしくはない。

 超大国、アメリカの大統領に食ってかかる2人の指導者が舌戦を繰り広げたら、どのような様相を見せるのだろうか。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中