最新記事

2016米大統領選

元大手銀行重役「それでも私はトランプに投票する」

2016年10月25日(火)14時55分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

ピーター・ラール(77) Photograph by Q. Sakamaki for Newsweek Japan

<今年の米大統領選は言わば「嫌われ者」同士の対決だ。両候補とも不支持率が約60%に上るなか、有権者はどのような理由で投票するのか。2人の支持者の素顔に迫る前後編企画、まずは「左派の憲法無視」に憤るトランプ支持者の本音から>

 ニューヨークのマンハッタン郊外に住むピーター・ラール(77)は、共和党支持者。亡き父はダグラス・マッカーサー元帥の直属の部下として戦艦ミズーリ号での日本の降伏文書調印式にも立ち会ったデービッド・ラール大佐で、彼自身は米大手銀行の元重役という経歴を持つ。

 ニューヨークは共和党の米大統領選候補ドナルド・トランプの出身地でビジネス基盤でもあるが、その同州でさえ、政治的な場以外でトランプの「熱心な」支持者を公言する人にはなかなか出会わない。ワシントンでは共和党の幹部たちでさえトランプと距離を置くなか、11月8日の投票日、温厚で知的な共和党支持者であるラールはトランプに投票するのか。

 10月初旬に彼の邸宅を訪ねてそう聞くと、ラールは落ち着いた口調で答えた。「残念ながら、イエスだ」

 過去にトランプの行動をメディアを通さず見る機会があったというラールは、「彼はひどい人間だ」と語る。「トランプが候補者であり得る唯一の理由は、クリントンの方がさらにひどいからだ」

 彼はマンハッタンでの仕事上、クリントンがどういう人間かも見てきたと言い、「彼女には道徳心がなく、衝動的に嘘を言う。今までに積極的に達成してきたことと言えば自分の地位向上だけだ」と切り捨てた。ラールは共和党員だが、ファーストレディーの時代から政治にどっぶり浸かってきたクリントンを「信用できない『政治屋』」だとして嫌悪する声は、民主党支持者の間でも根強い。

参考記事【対談:冷泉彰彦×渡辺由佳里】トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来(前編)

 ラールにとって候補者の資質以外に重要な争点は、次期大統領による最高裁判事の人選だ。アメリカの最高裁判所は9人の判事で構成されるが、今年2月に保守派の重鎮アントニン・スカリア判事が急死したことで、それまで保守派5人、リベラル派4人だったところに1つ空席が生まれた。次期大統領はスカリアの後任に加えて、高齢化する判事たちの引退を考えれば2期8年の任期中に数人を選ぶ可能性がある。ラールは、クリントンによって最高裁が左派判事に占拠されることだけは阻止すべきだと考えている。

 最高裁を大統領選の重要な争点に挙げる声は、民主党支持者よりも共和党支持者、若者よりも高齢者の間に多い。背景には、バラク・オバマ大統領率いる8年間の民主党政権下で、最高裁が同性婚や「オバマケア(医療保険制度改革)」の保険加入義務付けについて「合憲」の判断を下したことなどがある。ラールは、オバマケアは「左派が憲法を無視し、個人の自由を侵害して作りあげた産物だ」と語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国検察、尹前大統領の妻に懲役15年求刑

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=

ビジネス

英サービスPMI、11月は51.3に低下 予算案控

ワールド

アングル:内戦下のスーダンで相次ぐ病院襲撃、生き延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中